第50話

 正直、干し肉スープはそれほど旨くはなかった。

 所詮、干し肉。塩味も薄っすらだし、その辺でハーブみたいに使える草か何かでもあれば、風味付けにでもなったんだろうが、この暗闇では、そんなものを見つけることなどできるわけもない。普通に塩でも見つければよかったのかもしれないけど、へリウス自身が、調味料までは持ち歩いていなかった模様。

 それでも、なんとか俺でも食えそうなモノができてホッとする。

 残念ながら、予想通りに匂いもそれほど強くない。へリウスは相変わらず目を覚ます様子もなく、テントからのぞいている足は、ピクリとも動かない。

 俺は少しだけ柔らかくなった干し肉を鍋から出して、なんとか噛んでいると。


「……むん?」


 テントの背後に何かがいる気配を感じた。

 音は聞こえないけれど、何かが動いている。俺が感じ取れたのは、大きな一体。

 エルフの特性なのか、それとも、この世界での狩りに慣れたせいなのか、その手の気配を感じ取ることができるようになった。このなかなかにハードな世界を、子供の体で生き抜くためには、有用な能力なのかもしれない。

 俺はゴクリと干し肉の欠片を飲み込む。


「……まさか、魔物か?」


 四隅に魔物除けのお香を置いたのに? もしかして、お香すら効かない高ランクの魔物なのか!?

 一応、結界はまだ生きているし、そう簡単には壊れない、とへリウスは言っていた。それでも、厄介な相手の可能性もある。

 俺は慌てて火を消し、まだ熱い小鍋を持ってテントの中へと潜り込む。


「くそっ、へリウス、いい加減、起きろよ」


 俺は無駄だとわかっていても、へリウスの脇腹を叩く。もう傷は治ってるし、俺の力程度で、びくともしないのはわかってるけど。案の定、スピスピと鼻息を立てて寝ている。いや、ある意味、無事な感じだからいいのかもしれないけれど。


「う……やっぱり、何かいる」


 気配がゆっくりと前の方に向かって動いてる。テントに影が映ればいいのだけれど、それもない。

 そもそも、さっきまでへリウスが戦っていた相手もわからない。もしかして、へリウスに魔物が斃されたから、他の弱い……といっても魔物除けが効かないくらいには強い魔物たちが戻ってきたのか? 


 ……まさか、魔物を斃しきれなかったとか!?


「いやいやいや、へリウスに限って、それはないだろ」


 俺は頭を振って否定する。

 とりあえず、外にいるモノが何なのか、テントの入口から、こっそりと覗いてみる。

 火を消したせいで外は真っ暗だけれど、星の灯りなのか、薄っすらと浮かぶ……人影。


「え、人?」


 随分と大柄な体格な者と、それよりも少しひょろりとした小柄な人影。

 感じ取れたのは一体だけだったから、二人の人影に驚いた。


「……もしかして、村人? ……でも」


 二人目の気配……たぶん、ひょろりとした方が感じ取れなかった。

 森に住む狩人は気配を殺すのが得意なのは知っている。もしかして、彼も狩人だったりするのだろうか。


 ……しかし、散々な目に合ってきた俺が、単純に人と遭遇して喜べるわけもなく。

 彼らが、これからどう動くのか、ジッと窺うことにした。


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