第51話

 人影はぐるりとテントの周りを歩きながら、結界に触れてるのか、何やら確認しているみたいだ。へリウスの足は見えているはずだから、人がいるのはわかっているはずだ。

 でも、結界のおかげで中に入ってこれない。


「くそっ。いつまでいるつもりだ。あいつら」


 光がないから、表情もわからないし、敵か味方かもわからない。


「へリウス~、起きろ~」


 ぐりぐりとへリウスの頬を両手で押してやる。


「ふがっ」

「おっ、気付いた?」


 と思ったのに、動かない。


「まだ、駄目かよっ!」

「ぐがっ!」


 あ、鼻っ面を蹴とばしてしまった。


「ってぇ……誰だ、俺の顔を殴ったのはっ!」


 ……いや、蹴ったんだけどな。


「いつまでも寝てんじゃねぇよっ!」

「んぁ? あ、ハルか」

「ハルか、じゃねぇよっ! いい加減起きろやっ」


 俺の剣幕に、ようやっと起き上がったへリウス。


「すまん、すまん……って、臭ぇなぁ、おいっ」

「臭いのは、お前だっ!」

 

 俺の叫び声に、やっと自分の身体が汚れていることに気付く。


「くっせぇっ! あ、これ、あいつの血かっ。『クリーン』!」

  

 テントにこもってた臭いが一気に消えた。

 あの臭いに慣れてしまってた俺の鼻に、澄んだ空気が通った。空気が旨いって、初めて感じた。


「はぁ、すまんな。ん? あれはスープか」

「うん、いや、そうなんだけどさ」


 不審者のことを話したかったのに、テントの奥に置いておた小鍋を取りに入っていく。

 まぁ、激しい戦いだったのだろうから、と思うことにする。


「んんっ、悪いな、これハルが作ったのか、偉いな」

「まぁ、なんとかね」


 スープを食べているへリウスに、まず、外に誰かがいると教えたんだけど、頷くだけでそのまま食い続けてる。心配じゃないのかな。

 ゴクンッと飲み込んで、ホッと一息ついたところで、落ちていた開封済みの封筒を見て、顔つきが変わる。


「もしかして、封を切ったのか」

「切った」

「……そうか、あんな状態の俺を見たんじゃ仕方がないか。悪かったな。だが、まだ来てないだろ」

「外の奴らは?」

「……あれは違う」


 う。やっぱり。

 出ていかなくて正解だ。ていうか、外を見てもいないのに、よくわかるな。


「まぁ、しかし、いい気配ではない」

「結界があるから入ってこないと思うんだけどさ」

「ああ……俺が倒れこんでから、どれくらい経った?」

「う、うーん? 2,3時間? もうちょっと?」

「そうか、そんなもんか」


 空っぽになった小鍋を下に置いたへリウスが、テントの出入り口へ目を向けたと同時に。


「ふんっ!」


 気合を入れた。

 たったそれだけだったのに、外をうろついてたヤツの気配がいきなり消えた。


「さて、何がいるかな」

「え? え?」


 まさか、アレで!?

 俺が呆然としている間に、へリウスはさっさと外に出て行ってしまった。


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