第11話
大きな屋敷の奥にある、離れのような四畳半の部屋。
普段、あまり使われてないのか、少しばかり黴臭いような、埃っぽい空気が漂う。薄暗い電灯の下、肌寒い部屋には使い古された布団が一組だけ敷かれている。
なぜか俺だけ一人で、この部屋を使わせてもらうことになった。てっきり親父と二人で同じ部屋かと思ってたから、内心、ホッとした。ほとんど口もきかない相手と同室じゃ、眠れるものも眠れないと思ったのだ。
親父は親戚たちと夜通し飲み明かすようで、俺は先に休ませてもらことになった。
この部屋は俺の体格では、かなり狭く感じる。しかし、その狭さのせいか、変に落ち着く。
持ってきていた着慣れたグレーのジャージに着替える。布団に入ると、どこか懐かしい匂いのせいと、やはり疲れていたのか、すぐに寝入ってしまった。
* * *
目が覚めたのは、肩を出して寝ていてせいで寒かったのと、トイレに行きたくなったせいだ。
「というか、寒すぎだろ」
古い布団はそれなりにしか温かくはなかった。俺はジャージの上に着てきていたジャンパーを羽織る。部屋の中だというのに、吐き出す息は白い。
外はまだ暗く、音もなく静か……なはずだった。
『……だども……』
『しかた……あれは……』
かすかに聞こえてくる声は、親戚たちのいる大部屋からだ。
何やら、興奮気味なのは、酔いのせいなのだろうか。俺は寒さにブルリと身体を震わせ、母屋のほうのトイレへと足を向ける。
徐々に大部屋からの声が聞き取りやすくなってくる。
『だがらぁっ!』
『わがっとる、わがっとるが』
誰の声だかはわからないが、言い争ってるのは二人だけのようだ。
『早いとこ、あの子さ、贄に出さねばっ』
ニエ?
その言葉に足が止まる。ニエとはなんだろう? こっちの方言なのだろうか。
『だども、あれでも、良夫の息子だろうがぁ』
困惑気味な言葉の中に、俺の名前が出てくる。俺がどうだというのだ?
『……あれは、俺の息子でねぇ』
親父の冷ややかな言葉に、俺の心臓はギュッと鷲掴みにされた。
確かに、親子仲がいいとはいえない。距離があるのはわかってた。
でも。
『まぁなぁ、どうみてもうちの親族に見えねぇな』
『あーんなイケメン、どうやっだら生まれるんだか、聞きてぇくらいだ』
他の親戚たちの笑い声が聞こえてきたが、俺の足は固まったまま動けない。
『んだどもよぉ』
『さっさと、あんなのは、山神様に、差し出してしまえばええんだっ』
『まぁまぁ、良夫、落ち着けって』
それからは声のトーンが落ちたせいで、よく聞き取れなかった。
呆然としていた俺だったが、尿意には勝てず、そのまま慌ててトイレへと足を向けた。
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