第84話

 部屋の重そうな木のドアが勢いよく開いた。


「どうした! ミーシャ!」


 鬼のような形相というのは、ああいうのを言うんだろうな。

 さっきまで、凄いイケメンだったイザークさんが、もんのすごい怖い顔で飛び込んできた。この速さ、ドアの前にへばりついてたんじゃない? とか思うくらい、反応早すぎ。


「な、なんでもない、なんでもないって」


 ミーシャさんが慌ててイザークさんを「どうどう」とか言って宥めてるけど、イザークさん、俺睨んでるしっ! 怖っ!


「ほらほら、子供相手に、そんな顔しないで。本当になんでもないから……というか、ハルくん、あの、彼らは知ってるの?」


 同じようにドアのところにいたのか、へリウスたちも心配そうに顔を覗かせている。


「あー、いいえ、知りません」

「そっかー。うーん」

「どうしたんだ、ミーシャ。ハルに何かあるのか」

「いや、あるっちゃ、あるんだけど……ハルくん」

「あ、はい」

「この先、へリウスに世話になるんだったら、一応、話しておいた方がよくない?」


 え、ていうか、その言い方じゃ、明らかに俺に秘密があるって、バレバレなんだけど。

 言わないでもここまで来れたし、言う必要ないんじゃないかって、俺は思うんだけど。


「なんだ、ハル、俺に言えないことか?」

「いや、別に言えないっていうか……知らなくても困らないっていうか……」

「なんだよ、ここまできて、気持ち悪いぞ?」

『ふむ、ハルと申したな』


 今度は精霊王様が声をかけてきた。


「うわっ」


 いきなり姿を見せた精霊王様に、イザークさんたちが驚く。


『私は、お前の両親を知っている。特に母を』


 俺の両親? 母親?

 精霊王様の2度目の爆弾発言に、俺だけではなく、周囲のみんなが固まる。

 シーンという無音の擬音が浮かんでいそう。

 結局、皆戻ってきちゃって、ミーシャさんとだけの会話ってわけにはいかなくなった。


「ごめんね。ハルくん」


 本当に申し訳なさそうな顔のミーシャさんに謝られたら、俺のほうも、苦笑いで応えるしかない。


「風の精霊王様、それで、ハルの両親とは」


 へリウスが真剣な顔で問いかける。


「もし、生きているなら、送り届けるのはやぶさかではありません」

『……それは無理だな』

「それは……」

『ゲラルドとアカシアはもう亡くなっている……300年も前にな』

「……は?」


 俺の聞き間違いだろうか。


「300年?」

『そうだ。300年前、ゲラルド・エノクーラとアカシア・シャイアール、この2人の間に産まれたのが、お前だ』


 いや、300年前だよね?

 時間、おかしくね?


「えーと、俺、18才なんだけど」

「はぁ!?」


 今度の叫び声は、へリウス。

 まぁ、言ってなかったしな。


「え、まさか、エルフの見かけ年齢、恐ろしすぎなんだけど」


 アーロンがぼそりと呟いた。

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