第83話

 そして、俺の目の前に座っているのは、ミーシャさんと、旦那さんのイザークさん。先ほどの小さい子供たちは別室にいるらしい。そして、彼女たちの背後には、護衛のごとく立つ、精霊王様。

 俺は……へリウスの膝の上に乗せられている。その隣にはアーロン。


「さてと、ごめんね、待たせて。ちょっと娘にお乳あげてきて」

「ほんと、すまん! そろそろ産まれるって聞いてはいたんだが」

「本当よ、へリウス」

「……すまん。状況が状況だったからさ」


 へリウスがタジタジになっている。強い。


「で、その子がボブさんとメアリーさんに頼まれた子なわけね?」

「そうだ。本当に助かったよ」

「これから、どうするの」

「一応、うちにでも連れて行こうと思ってたんだが」

「そうなの? メイリンには許可もらってるの?」


 メイリンってのは、へリウスの奥さんだったかな。

 チラッと見上げると、目が合ったへリウスがニコッと笑った。


「ああ。うちのには話してある。楽しみに待ってるんだ」

「なら、よかったわ。もし、難しいんだったら、うちでもよかったんだけど」


 俺に目を向けて、にこり。

 ……ありがたいけど、聞いてない。

 いや、隣の大陸に逃げる、という話をした。話をした気がする。あれ?


「でも、その前に……彼と、少し話をしてもいいかな?」


 ミーシャさんも、にこり。


「たぶん、彼も私と話をしたいと思ってると思うの。みんな、部屋から出てくれるかな」


 ミーシャさんの力のある笑顔に、素直に出ていく男3人。

 男とは言え、俺みたいなちびっ子相手に、ミーシャさんが何かするわけないかということで(逆のパターンは考えもしない。当たり前だけど)、3人ともが出ていった。

 ただし、精霊王様は残っている。

 たぶん、ミーシャさんの「みんな」には含まれてないんだろうな。というか、他の人には見えてないんだと思う。俺がチラチラ目を向けると、それに気付いて、口角上がってる。

 ちなみにエアーは俺の肩で、ちんまり、正座している。


「さてと……お名前は、ハルくんでよかったかな?」


 思いっきり、子供扱い。

 いや、当然なんだけどさ。この見かけだから。

 でも、ミーシャさんを見てたら、元の自分の感覚の方が戻ってきてる。


『美佐江、コレは、そんなに赤ん坊ではないぞ』

「そりゃ、赤ん坊ではないだろうけど、まだ子供じゃない」

『いや、子供というのも微妙な……』


 あー、この精霊王様には、俺の実年齢がわかるのか。

 それと、精霊王様はミーシャさんのことをさっきから『美佐江』と呼んでるけど……なんか聞き覚えがある。なんだっけ。


「えーと、ハルくんは、エルフってことでいいのかな。耳はとんがってるし、エルフよね? 風の精霊王様」

『ああ、彼はハーフエルフだな。美佐江、鑑定してみろ。なかなか、面白いぞ』

「何言ってるんですか、勝手に鑑定なんて……ハルくん、鑑定ってわかる?」


 2人の掛け合い漫才みたいなテンポの会話に、目が2人の間を行ったり来たり。


「え、あ、はい。わかります……ていうか、ミーシャさんの名前は、美佐江さん、なんですか?」

「やだ、何、ハルくんは、ちゃんと発音できるのね! ちょっと嬉しい」

『そりゃそうだろう。元々、美佐江と同じ世界の魂なんだから』


 精霊王様の爆弾発言に、俺とミーシャさんは固まる。


「や、やっぱり、ミーシャさんは、日本人なんですか」


 先に言葉が出たのは俺。掠れたような声になってしまった。

 一方のミーシャさんは、驚きで一瞬固まった模様。


「……えぇぇぇぇっ!? まさかのハルくんもなのぉぉぉ!?」


 ミーシャさんの叫び声があがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る