第23話
メアリーさんのフライパン姿は、何気に迫力がある。それだからってわけじゃないだろうけれど、ヘンリーとか呼ばれた冒険者も一瞬、動きが止まる。
「あん? なんだよ」
そう言って意気込んできたのは、やっぱりモブ一号。
「おい、やめろ……ボブさん、そいつ、ボブさんの何なんですか」
いきなり丁寧な言葉になるヘンリー。その隙にと、俺はボブさんたちの背後に隠れる。
「ああ、うちで世話してるが。なんか文句あっか」
「いや、文句はないですけどね」
「ちょ、ヘンリーさん、なんで」
「黙ってろっ。そもそも、お前があの子を捕まえろっていうから、捕まえたんだが」
ジロリと睨むヘンリーの気迫に、モブ一号が腰が引けてる。俺はボブさんの後ろにいるからまだマシってだけ。ちょっと、怖いぞ、この人。
「いや、だってこいつ、生意気なんですよ」
「生意気だぁ?」
「ま、まぁ、まぁ。ボブさん、抑えて」
ボブさん、怒りのオーラが見えるようで、ヘンリーさんのほうが慌ててる。
「なんだよっ、そんなんだから、そこのチビも生意気なんだろっ」
このセリフに、俺のほうもカチンとくるわけで。
「ああん? なんだと、このボケがぁ? クソガキのくせに、生意気言ってんじゃねぇぞ、ゴラァ!」
静かな村の朝に響く、俺の怒鳴り声。
勢いで怒鳴りつけたら、周りが固まる。
鳥の鳴き声が、ピーチチ、と響く。
「……ハル……頑張って言ったんだろうけどなぁ……可愛い声で言っても、可愛いだけだぞぉ?」
ボブさんのなんともいえない声に、肩がガクリと落ちる。くそっ。元の身体だったら、馬鹿にされなかっただろうにっ。
「ぷっ、ククク」
「何、笑ってんだよ、オッサン」
「お、オッサンだとぉ!?」
笑いやがったヘンリーに、白い目を向けてそう言ってやると、ヘンリーが顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。
「ほれ、お前が怒ってどうするだ。そもそも、そのボケェが、うちのハルにちょっかいだしたのが悪いんだろぉがぁ」
「だとよ、ケン」
「お、俺は悪くねぇ! こんな森の奥にエルフがいるから、なんでいるんだって聞いたのに、コイツが無視するから」
「……無視するからって、捕まえるの? こんな子供相手に? それ、普通なの? ボブさん」
俺は冷ややかな目で、モブ一号を睨みつけながら、ボブさんに問う。
「いんやぁ。人間は知らんが、オラたちはぁ、相手にしないなぁ。無視するってのは、聞かれたくねぇってことだろぉ? 無理矢理聞くとかは、普通はしねぇんでねぇかぁ?」
そう言いながら、目の前の人間たちをジロリと睥睨する。そして最後にヘンリーに目を向ける。
「……人攫いでもないかぎりな」
「なっ、ボブさん、それは誤解だ! 俺はそんなつもりは」
「でも、そいつはハルの見かけからエルフだって思ったんだろぉ? 外じゃぁ、人族の貴族なんかが、子供のエルフをいい値段で取引してるって言うしなぁ」
「えっ!?」
ボブさんのセリフにびっくりする俺。
まさかの人身売買とかあるのか、この世界。いや、考えてみれば、ファンタジーな世界なんだ。このホビットの村にはいなくても、外に出れば、奴隷とかもいるのかもしれない。
そう考えたら、スッと血の気がひいた。
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