第22話
次の日も、まだ行商人の集団は村の中央に荷馬車を置いた状態だった。行商人たちは荷馬車のそばで野営をして、飯炊きをしているようだ。確かに、大柄な人間が泊まれるような宿もないし、仕方がないのだろう。
俺は朝早くから、近くの沢まで行って手桶に水を汲みに行く。これは、朝の俺の日課だからだ。何気に筋トレになってる……はずだ。
「なんで、エルフが水汲みしてんだよ」
また、あの男だ。ふてぶてしい声だけでわかる。なんだって、俺に絡んでくるんだろう。
俺はやっぱり無視して、水を汲み終えた手桶を持って振り返る。すると、今日はあのモブ男だけじゃなくて、あと二人ほど、やっぱり、こいつらもモブだな、と思うような見た目の男たちが、驚いたような顔で立っていた。
「……どいてください」
一応、下手に出てみたよ。顔は思いっきり嫌そうな顔になってるだろうけどね。
「おい、なんでかって聞いてんだろ」
モブ男一号が、偉そうにそう言いながら、俺の持ってる手桶に手を伸ばしてきた。
――なんだよ、しつこいなっ。
イラっとした俺。ちょっと手桶の水が零れちゃうかもしれないけれど、こいつらの相手をしてるほうが、面倒だ。
俺は掴まれる前に、するりと抜ける。
「あっ、こいつっ。おい、テリー、捕まえろっ」
「はっ、な、なんでだよっ」
「え、捕まえんの?!」
モブ二号も三号も、一号の言うことへの反応が鈍い。たまたま、連れてこられたってだけなんだろう。モブ一号に連れられて、ご愁傷様。
俺は三人を残して、ボブさんの家に向かおうとしたんだが。
「あっ! ヘンリー様っ! そいつ、そいつ、捕まえてくださいっ」
モブ一号の言葉に、すぐに反応したヤツがいた。ヘンリー様、と呼ばれた男が、俺の襟首を掴んで、持ち上げやがった。見た目は、肩までストレートの金髪に、青い目、立派な体躯に、見るからに強そうではある。たぶん、若い女子とかいたら、王子様~、とか言われて、げぇ、キャーキャー言われそうなタイプだ。
「あ~ん? なんだ、ケン、このチビがどうしたよ」
「ちょ、は、離せよっ」
「駄目だぁ、お前、何悪さしたんだ?」
なんだ、こいつ、俺が悪い前提かよ。
「何もしてねぇよっ。離せよっ」
完全に頭にきた俺は、手桶を思い切り振り回した。
「わっ、な、何すんだよっ、びしょ濡れじゃねぇかっ」
おかげで襟首から手が離れて、解放された俺は空っぽになった手桶を抱えて地面に着地する。
「ヘンリー様っ!」
「大丈夫ですかっ!」
「このチビ助がっ」
モブたちが俺に襲い掛かろうとした時。
「おい、あんたらぁ、うちのハルに何してくれてんだぁ」
そこには、見たことがないほど怒った顔のボブさんと、フライパンを片手にぶんぶん振り回しているメアリーさんが立っていた。
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