第68話

 夜にもう一度、アーロンはギルドに連絡が来ていないか確認をしにいった。しかし、予想通り、へリウスからの連絡はない。

 俺たちはそれを見越して、新たな伝言を残すことにした。


 ――港町カイドンに向かう。連絡先は、ノドルドン商会まで。


 このノドルドン商会というのは、この大陸でも有名な商家らしく、アーロンの姉が嫁に入っているところだ。アーロンとその姉の間では連絡がついているらしく、むしろギルドなんかよりも、よっぽど信用があるらしい。そして、ノドルドン商会を敵に回すと、ヤバいらしい。


「そんじゃ、明日はさっさとこの町を出るぞ」

「おー」


 すでに眠い俺は、ふにゃふにゃとなりながらも、手をあげて返事をした。


「フフッ、まったく、小生意気なこと言うくせに、ほんとちびっ子だよなぁ」


 なんかアーロンが言ってた気がしたけれど、ちゃんと聞き取れないうちに眠りに落ちた。




「ふがっ!?」

「悪いっ」


 突然、誰かに抱きかかえられた。


「な、なんだ!?」


 寝ぼけている俺は、ジタバタとする。


「俺だ、俺」

「オレオレオ詐欺かっ!?」

「なんだそりゃ、アーロンだってば」

「……は?」


 こそこそと声を抑えて話してくるのは、やっぱりアーロン。なぜか、すでに着替えも終えてバッグも背負っている。

 落ち着いて、周囲を見れば、泊っている宿の部屋だ。びっくりした。


「どうしたんだ」

「なんか、下の階に嫌な気配のする奴らが来ている」


 俺には全然わかんないんだけど、アーロンが言うのならそうなのかもしれない。フッと視線を感じて見回すと、エアーが渋い顔で頷いている。もう、確定だ。


「俺が何度かギルドに行ってへリウス様に伝言を頼んでたのと、子連れだったってのが伝わったのかもな」

「え、これ、ギルドの奴らなの?」

「いや、ギルド職員の中にこいつらと繋がっているヤツらがいるんだろ」


 どこにでも癒着とかっていうのはあるんだな。なんだか、嫌になる。


「この程度の人数だったら、俺でもなんとかなるだろうが、魔術師がいたらやべえ」

「そうなの?」

「ああ、俺たち獣人は、あんまり得意じゃねぇんだよ。その魔術絡みでの攻撃も防御も」


 そうなのか?

 へリウスのことを思い返すと、確かに、生活魔法の類はあっても、戦闘中に魔術を使っている姿を見た記憶はない。


「てことで、逃げるに限る」

「お、おお」


 宿泊費は前払いしているので、さっさと部屋を出る。ドアではなく、窓から。


「おっと。今日は月が隠れてたか。助かった」


 すでに深夜も遅い。町の灯りはほとんどない。

 宿の前の通りには、当然、人通りもない。


「よし、声出すなよ」


 アーロンの言葉に、俺は素直に頷く。

 ニヤリと笑ったアーロンは、俺を抱きかかえたまま、3階の窓から飛び降りたのだった。

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