第58話
俺は大人しくテントの中にいた。
一応、このテント、俺個人の認証で使えるようになっているので、他の人は入れないような結界が張ってある。随分と高かったんじゃないか? と思ったら、テントそのものにではなく、中に置いてある魔道具にそういう機能がついていて、そもそもがへリウスの持ち物だったらしい。テントだけ、この町で買ったんだそうだ。なるほど。そんな高機能な物が、この小さな町にあるわけないか。
受付の若い女の子が、何度となく声をかけてきたり、お菓子をくれようとしたりしたが、完全に無視した。知らない人から食べ物なんかもらって、いいことがあるとは思えない。特に、この世界では。
しかし、ずっと中にいっぱなし、という訳にもいかないこともある。
――生理現象は抑えられない。
これは『大人しくしていない』の範疇には入らないだろう。そもそも、ここで漏らす方がヤバい。恥ずかしすぎる。
俺はひょこりとテントから頭を出す。カウンターの方は、人がいないと言う割に、誰かしら話をしているようで、こっちに気が付かない。
トイレの場所は事前に聞いていて、一応、ギルドの中にある。カウンターの脇の廊下を行った先だ。俺は、あまり音をたてないようにして、カウンターの中から廊下へと出る。へリウスがいるうちに、一緒に確認しとけばよかったかな、と思いながら、廊下を進んでいくと、大きなドアがあった。これが、トイレのドアらしい。
「マジか」
思わず見上げてしまった。宿のトイレの取っ手はそんなに高さはなかった気がしたのだが。
……とりあえず、無事に終えることが出来た。
ぼっとんで助かった。洋式だったら、便座に登らなきゃならなかった。しかし、随分深い。たぶん、この先にはいわゆるスライムというヤツがいるんだろう。あんまりのぞきこみすぎると、自分が落ちる。
手水の場所を探したが、それらしきものが見当たらず、ばっちいな、と思いながら、そのままトイレを出てきたら。
「あ、見~っけ♪」
受付の若い女の子が待ち構えていた。
可愛いつもりで言ってても、俺には、ただの可愛子ぶってるだけにしか見えない。
いや、むしろ、怖いくらいだ。
「うふふ、やっと出てきた~。お父さん、まだ帰ってこないから、私と一緒に遊ぼう?」
いや、へリウスは親父じゃないし。
ていうか、俺、手、洗ってないけど、手つかむのか。
「もう、せっかく可愛い顔してるのに、なんでフードで隠してるのぉ?」
やめろ、と言ってフードを抑え込もうとしたら、力で負けた。女子に。いや、そうではなくて。
「え」
「あ」
「えぇぇぇっ! エルフの子供ぉぉぉっ!?」
この女、大声で叫びやがった!
最悪だっ!
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