第57話

 翌日、朝から腹いっぱい食べた俺は、かなり元気だ。

 昨夜の不審者は戻ってこなかったようで、俺は朝までぐっすり寝ることができた。

 へリウスに抱きかかえられたまま、冒険者ギルドに行くと、そこそこの人数が掲示されている場所に集まっている。そうは言ってもCランク程度までのものに人が集まっている状態で、それ以上のランクの前には、ちらほらしかいない。

 俺たちは掲示板には行かずに、受付の方へと向かう。

 へリウスの姿を見て、カウンターの中にいた若い女の人がすぐに動いた。奥の部屋から、昨日会ったおじさんが現れる。


「すまんね」


 本当にすまんと思ってるのか微妙な感じの、笑みを浮かべている。


「……悪いが、やっても今日一日だ」


 へリウスもそれを察したのか、ブスッとした顔でそう答える。


「で、できれば、三日くらいいられないか」

「……宿屋で、部屋に賊が入ろうとしたらしいんでね。そんな町に長居する気はない」

「な、なんだって」


 おじさんはサッと顔色を悪くする。どっちの意味で悪くしたんだろう。

 賊のこと?

 早くいなくなること?

 フードの中から、ジロリと見下ろす俺。 

 

「とりあえず、優先してやるのはどれだ」

「あ、え、えと」


 へリウスの威圧が半端ないのか、おじさんがビクビクしだしている。

 ああ、慌てるから書類が床に散らばるし。


「……なんだ、ボブ、騒々しい」


 奥の部屋から、今度は随分とイケボなおっさんが現れた。スキンヘッドがなかなかにいいテカリ具合だけど。


「ギ、ギルマスッ」


 明らかにホッとしている受付のおじさん。慌てて、ギルマスと呼ばれた男のところによって、何やらコソコソ話してる。チラッと俺に目を向けるが、これといって感情は見られない。


「なるほど……あんた、名前は」

「……先に名乗るのが礼儀ってもんじゃないか」

「お、おいっ」

「ああ、悪い、俺はここでギルマスやってるアランってもんだ」

「……へリウス」

「へリウスな、んで、仕事は今日一日だけか」

「ああ」

「わかった」

「ギルマスッ」

「仕方ねぇだろ。やってもらえるだけありがたいんだ」


 おじさんはまだ納得いかないようだけど、ギルマスの言葉に引き下がる。


「んで、この坊主はうちで預かればいいんだな」

「ああ。宿は物騒なんでな」


 へリウスはそう言うと、俺を床に下した。すると、若い女の子がカウンターの中から出てきて、俺を捕まえようとするので、すぐにへリウスの後ろに逃げ込む。そんな残念そうな顔をされても、嫌なもんは嫌だ。

 結局、ギルドの受付カウンターの中のスペースに、小さな、本当に小さなテントをはって、俺はそこにいることになった。一応、へリウスの荷物も預かってもらうっていう体で。

 昨日、へリウスが買いに行ったのは、この小型のテントだったらしい。これにも一応、結界機能がついているとかで、俺の避難場所でもあるらしい。


「何も、そこまでしなくても……」


 そうブツブツ言ったのは、受付のおじさん。


「昨夜のこともあるんでな」


 そうへリウスが言えば、何も言えないようだ。


「とりあえず、今日できるものだけな……ハル、大人しくしてろよ」

「うん」


 ぐりぐりっと頭を撫でられた俺。ニヤリと笑って返事をする。

 へリウスなら大丈夫だろう。

 俺はそう確信しながら、ギルドを出ていくへリウスの背中を見送った。

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