第19話
今思っても、かなりラッキーだったのだろう。魔物に見つからなかったことと、ボブさんに見つけてもらえたことが。
あれから、あの場所には戻っていない。
そもそも、一人で戻れるほど、場所の位置が認識出来てなかったし、ボブさんも、もう一度と言われても、今度こそ魔物に襲われかねないから、無理、と言われてしまった。
そして気が付けば一カ月が経っていた。
その間に、この世界の常識っぽいことを十分に教えてもらえたと思う。
ボブさんは元冒険者だけのことはあって、周辺の国のことはよく知っていた。
今、俺がいるのはシャイアール王国というエルフたちが多く住む国の、南に広がる魔の森の中、だそうだ。エルフが多く住む、と言っても、ほとんどが王都周辺に固まっているそうだ。
そして、この国の北にはエノクーラ王国という人間と獣人が住む国があり、西にある海を挟んだ先に、もっと大きな大陸があるらしい。
ちょっと獣人っていうのに、興味は引かれる。ここらでは行商人の護衛の冒険者でもなければ、ほとんど見ることはないそうだ。
だったらエルフは? となるんだけれど、それこそ普通のエルフだったら、魔の森にすらやって来ないのだとか。ここの魔素? というものがエルフには毒になることの方が多いから。
じゃぁ、なんで俺は大丈夫なの? と思うんだけど……なんでなんだろうね?
「昔は、エルフもよく来てたらしいんだがなあ?」
「えっ?」
「ほれ、あの、ハルを見つけた湧き水のとこ、あそこは、むかーし、エルフの祭殿があったところらしいだ」
「えっ? でも、全然、建物とかの跡みたいなのなかったけど」
「だから~、すんごい昔だぁ。オラたちホビットがここに移り住む前だなぁ、オラも、じいさまから聞いた話だけんど。」
ボブさんのおじいさん、なんて言ったら、ニ、三百年前ではきかないかもしれない。祭殿が造られた頃は、ここは魔の森の中ではなかった、ということなんだろうか?
そして、この世界、魔法が存在するらしい。
らしい、というのは、ホビットたちは魔法が使えないから、実際に目にすることが出来ないのだ。
一応、エルフと人間の一部には、魔法を使える者が存在するそうだ。だったら、俺も使えるのか!? と期待したんだけど、そもそも、どうやって使うのかがわからんので、試しようがなかった。
実は、まさかと思って、誰もいないときにこっそり『ステータスオープン』なんて呟いてみた。しかし、何も出てきやしませんでした。がっかりだよ。
ボブさん曰く、魔法の使い方を学ぶには、学校に行ったりしないといけないらしい。まぁ、その前に魔力があるかどうかの試験みたいなのがあるそうなんだけど、この村にはそんな学校はない。そもそも、ホビットは魔法使えないからね。
「行商人の護衛にエルフでもいれば、ちーとは魔法のことを教えてもらえるかもしれねぇが、そもそも、エルフの護衛なんて、この森にゃ、来ないしのぉ」
「そういえば、まだ来ませんね。行商人」
前に来た時から、そろそろ二か月近くになる。村としては、ほとんど自給自足をしているとはいうものの、珍しい品物だけでなく、外界の情報をもたらしてくれる、というのもあって楽しみにしている者も多い。
「何かあったんだべか」
心配そうにぽつりと呟いたボブさんの言葉に、俺も少し不安になった。
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