第66話

 俺が目を覚ました時、アーロンはまだ戻ってきていなかった。

 ぐりぐりと瞼をこする。

 

『起きたか』

「うん。アーロンは?」

『一度戻ってきて、また出てったぞ』

「そっか」


 ベッドから下りて、椅子をズルズルと引っ張って窓際へと持っていく。俺の背丈じゃ、窓の外が見えないからだ。

 なんとか椅子にのぼって、ようやっと外の景色が見える。すっかり日が落ちているにも関わらず、街灯のせいか、思ったよりも明るい。


「……けっこう人通りが多いんだな」


 俺たちの部屋は、だいぶ高いところにあったらしい。日本でいう3階くらいだろうか。


「さすがにここから逃げるとなると、難しいな」

『逃げるの?』

「いや、まずはアーロンの話を聞いてからかな」

「そりゃいい判断だ」


 いきなり部屋のドアが開いて、アーロンが会話に参加してきた。

  獣人の聴力、ハンパねえな。


「……おかえり」

「おう。一応、飯貰ってきたぞ」


 彼の手には大きな木の皿に、パンと肉の塊とふかした芋のようなものが載っていた。ちょっと、見た目5才児の俺には量が多すぎる気がするんだけど。

 椅子から下りて、その椅子を引きずろうとしたら、先にテーブルに皿を置いたアーロンが持ってくれた。


「ありがと」

「さぁ、食え。食いながら聞け」


 アーロンはもう下で食べてきたらしい。

 肉が硬い。かぶりついても嚙み切れない。そんな俺を見かねたのか、アーロンが自分のナイフで細かい塊にしてくれた。


「どうも」

「おう……さてと」


 アーロンが長い足を組みなおし、見下ろしてくる。

 くそっ、でけーな、コイツ、羨ましいぞ。


「ギルドには一応、頼んできたぞ。すぐに伝わるかどうかは、わからんがな」

「……なんて伝言したの」

「ハルを預かっているってことと、今いる町に明後日まで滞在することかな」

「……明後日」

「ああ。お前を探している連中が、ここまで来れるとして、それぐらいがギリギリだろう」


 俺が隠れている間に見つけられたのはアーロンだけ。ということは、あいつらの仲間には獣人が含まれていないのだろう。

 アーロンが俺を抱えて走ってくれたものの、奴らのアジトからどれくらい離れたのかわからないからな。


「その後は、港町のカイドンに向かうことにする」

「うん。あっちの大陸に向かうって話だったからね」

「だったら、向かう方向は一緒のはずだからな」


 明後日までにヘリウスと合流できればいいけれど、その可能性は低い。それでも、港町まで行って、そこで待っていれば出会える可能性は増えるはずだ。


「へリウス様のことだ、なんとか合流してくれるだろ」

「……そう願うよ」


 アーロンは俺の頭をぐりぐりっと撫でると、食べ物がきれいになくなった皿を手に、部屋を出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る