第3話

 男の子は自分の名前が呼ばれたような気がした。周囲を見渡すと、周りは大きな木々に囲まれた神社にまで来てしまっていた。


 父親の田植えの様子を見るのも、すぐに飽きてしまった男の子は、最初は田んぼの畦道を生き物探しをしながら歩いていた。家の近所には、こんな場所はないものだから、夢中で歩いているうちに、こんなところまで来てしまっていたのだ。


 サワサワと風が吹く音とともに、なんともいえない空気が漂っている。甘いような匂いと、少し焦げたような臭い。男の子は甘い匂いの方が気になって、トコトコと歩いていく。神社の大きな本殿の裏手には、本殿よりもだいぶ小さな祠が置かれていた。匂いはそこから漂ってきている。男の子は祠に近寄り、中を覗くが、ただ古い仏像のような物が置かれているだけだった。


 頭を傾げた男の子は、祠の裏手のほうへと向かうと、そこには小さな湧き水があった。大きさは畳一畳ほどの大きさで、踝くらいの深さ。底まで見える綺麗な水を見て、男の子は自分が喉が乾いていたことに気が付いた。

 湧き水のそばにしゃがみこみ、小さな手で湧き水に触れようとした時、急に白く輝く球体が飛び出してきた。あまりに突然で、男の子はびっくりして後ろに尻もちをついてしまった。それと同時に、湧き水から黒い煙のようなものが溢れてきた。黒い煙は細く伸びると、まるで獲物を見つけたかのように男の子の腕に絡みついた。


「や、やぁっ!」


 その気色の悪さに、男の子は顔を引きつらせて叫ぼうとしたが、煙の力のほうが強く、一気に湧き水へと引きずり込んだ。

 男の子は頭から引きずりこまれてしまい、バタバタと暴れていたが、しばらくするとまったく動かなくなってしまった。そして、いつの間にか煙のほうも消え去っていた。


 飛び出した白く輝く球体は、男の子の身体の周りを、フラフラ、フラフラと漂い、しばらくすると、するりと身体の中へと入っていった。

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