閑話

白狼の憂鬱(1)

 アーロン・ジラートは、昨夜のノドルドン商会の捕り物についての事情聴取を終えて、自宅のベッドにうつぶせに倒れこんだところだった。

 金色に輝くくせ毛長い髪が、窓の隙間から漏れる朝日に反射してキラキラと輝いている。


「う~、しんど~」


 アーロンは獣人である白狼族と人族のハーフだ。

 金髪からは白い耳が、尻にはふさふさの白い尻尾が力なく垂れ下がっている。

 帰宅後、アーロンは着替えもせず、ボロボロの状態だ。何せ、昨夜は、かなりの大捕り物だったのだ。


 ノドルドン商会と言えば、シャイアール王国の商人ギルドの中でも五本の指に入るほどの大店。そして、ノドルドン商会の跡継ぎ、ラオル・ノドルドンは、アーロンの年の離れた姉、ライラの夫でもある。

 その大店の倉庫を狙う盗賊どもの襲撃があったのだ。

 事前にその情報がわかっていて、ここ数日、手ぐすね引いて待って網を張っていたアーロンたちであったのだが、予想以上の大人数での襲撃に手こずってしまった。


「ねぇちゃん、人使い荒過ぎだろ……」


 そう呟いてしばらくすると、スース―と寝息をたてはじめていた。

 完全に寝入ってしまっている。

 時より、鳥の鳴き声も聞こえてきていたのだが。


 ドンドンドン!


 アーロンの部屋のドアが激しく叩かれた。

 しかし、意識を失うように寝てしまったアーロンには届かない。


 ドンドンドン! ドドドドドドドドドン!

 ドカンッ!


「アーロン叔父さんっ! 起きろっ!」


 激しくドアが壊れる音がして、飛び込んできたのは、ヤコフ・ノドルドン。アーロンの甥っ子にあたる。修行も兼ねて、行商人として、シャイアール王国内をあちこち旅をしているが、三人の子供のいる子煩悩な男である。

 アーロンが白狼族の特徴である耳や尻尾があるのに対し、ヤコフは白狼族と人族とのクォーターのため、ほとんど人族と変わらない外見になっている。ただし、一般的な人族よりも力が強いので……このようにドアが壊されることもある。


「叔父さんっ!」


 ヤコフはベッドに倒れこんで寝ているアーロンの肩をグイグイと揺らす。


「叔父さんっ、起きてくれよっ!」


 叔父さん、と呼んでいるが、実際にはアーロンの方が少しだけ年下である。

「んだよぉ~、寝かせてくれよぉ~」

「そ、それどころじゃないんだよっ」

「くそっ、やって寝られると思ったのに」


 むくりと起き上がると、ベッドに腰かけ、目の前にいるヤコフを睨みつける。


「……大した事なかったら、てめぇ、覚えてろよ」

「うっ、そ、それは、母さんに言ってくれよ、お、俺は母さんに言われて来たんだし」

「ねぇちゃんかよ……ったく、俺は体のいい使用人じゃねぇぞっ」


 そうは言っても、長女である姉、ライラはかなり年が離れており、今は亡き母親代わりに、アーロンを育ててくれた相手でもある。

 頭をガシガシとかきながら、ヤコフに目を向け、顎で話を促した。


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