第31話

 朝一番、は、本当に朝一番だった。何せ、日は昇っていない。冒険者ギルドのドアも開いていない。


「ねぇ、こんな早くに来る必要ある?」


 俺は瞼をこすりながら、ヘリウスに不服気に問いかける。まさかここまで早いとは思いもしなかった俺。迎えに来たヘリウスに、慌てることなくついていけたのは、ボブさんたちのおかげ。

 こんな朝早くだというのに、ボブさんたちは当然のように朝食の準備も終えていて、しっかり食事もさせてくれた(へリウスの分まであったのには驚きだ)。さすがに、トニーとアンナは起きてこなかった。普通は俺だって寝てるって。


「早い時間じゃねぇと、お前が登録できるのは昼過ぎくらいになっちまうぞ」

「え、なんで?」


 へリウスを見上げながら話している間に、俺たちの後ろに、数人の冒険者が並びだした。見た感じ、まだ若手の駆け出しみたいだ。


「どんどんクエストを受けに冒険者たちが集まって来るんだよ。いいヤツはすぐに取られちまうからな」


 そこそこ大きいこの町だと、受付人数も多くなるから、ドアが開くと同時にクエストの出ている掲示板に人が群がるらしい。当然、朝一に受けた連中は、早ければ昼前には戻ってくる。そうなると、午前中はまったく落ち着いた時間がないというのだ。


「特に、お前は新規登録だろう? 色々手続きがあって、時間がかかる。早くしなけりゃ、下手すれば、今日中に町を出られなくなるぞ」


 マ・ジ・か。


「追手の奴らから、できるだけ離れた方がいいんだろう? そのために、わざわざボブたちが朝早くに起こしてくれたんだからな」


 そこまで考えてくれてたのか、と思うと、ちょっとクるものがある。ずずっと鼻をすすった俺の頭を、ヘリウスがゴシゴシっと撫でた。


「それにな。早い時間のほうが、お前のことを気にする余裕のある奴はいないんだ」


 なんでも、この時間に来るようなのは若手ばかり。早くランクを上げたいからこそ、クエストの数をこなすことを優先している連中だというのだ。そのせいもあってか、かなり騒々しい。

 俺の方としても、フードをかぶっているとはいえ、下手な関心をひくつもりはない。無意識にフードを深めに下そうとした時、目の前のドアの鍵が開く音がした。ゆっくりと開いたドアの先には、綺麗な人間のお姉さんが立っていた。


「はい、皆、お待たせ。慌てないでゆっくり中に入ってね!」

「おおっ!」


 お姉さんの声に、背後の冒険者どもの野太い返事が響き渡る。朝から元気だねぇ。思わず、両手で耳を塞いでしまった。


「ほれ、ハル、俺たちも行くぞ」

「うんっ」


 ヘリウスに背中を押され、俺は初めて冒険者ギルドの中へと入っていった。


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