第57話 新生シャインデザイアー

 シャインデザイアーの3人が、帰還した後の2日間は彼女たちの休息のため宿でまったりと過ごして貰う事にして、俺は近場で魔獣の討伐クエストをこなし日銭を稼いだり次の遠征用に食料や資材を購入したりした。

 3日目に、街の中央広場で待ち合わせの約束を交わしている。

 約束の時間より、少し早めに広場に来て、ボーとなんとも無しに人の流れを見ていると、視界の端に3人の姿が見えた。

 2日間で鋭気を養えたようで、元気に近づいてくると、はにかんだようにしながら「「「おはよう」」」と挨拶をしてくれる。

 その顔を見るとこちらも少し恥ずかしくも、「おやよう」と返す。

 少し心臓の鼓動が早くなってきたが、3日前に告白をし、良い返事を返して貰ってから初めての顔見せである。

 否応なく、緊張がわくというものだ。


 4人そろったので、ギルドに向うとボードからDランク用のクエストを探す。

 色々見ていると、ソフィアが一枚の依頼書を持ってやってきた。

 依頼書には“シルバーファングウルフの討伐”とタイトルが書かれ、その下に詳細が書かれている。

 頭数は5匹で、二つ隣の町リマド近くの山中に居座り、山を下りては家畜を襲うらしい。

 普段山中に隠れ住んでいる為、討伐が困難とのことだ。

 冒険者でも、そこそこのランクでないと山中をうろつくことは困難を極める。

 運が悪ければ、自分より高位の魔物と遭遇する危険が常につきまとうからだ。

 逆に言えばクエスト以外の魔物の素材を獲得することが出来、臨時収入になるので人気があるが、時々未帰還の冒険者が出るから山に入るなと耳にタコができるぐらいエミリーさんに言われた記憶が新しい。

 皆で相談した結果、5匹なら対処可能と言うことになり受付にむかう。

 エミリーさんが、依頼書を受け取ると眉間に皺を作る。

 美人さんのする顔じゃ有りませんと心の中で、思う。口に出すと4人の反応が怖い。

 早くも尻に敷かれている状態なのが難有りだが、。惚れた弱みと3人相手に、口で勝てるわけがない。


 「本当に、これを受ける気ですか?Dランクとはいえ山中に入ることになるんですよ?」とエミリーさんは、山の危険に対して警戒してくれている。

 「危険に対しては、十分警戒を怠りませんし強力なモンスターなら感知したら即刻逃げるので問題ありませんよ」と安心安全をアピールしておく。

 実際は遭遇した魔物は、出来るだけ討伐するつもりなんだけどね。


 「あと、俺、正式にシャインデザイアーに加入することになりましたので登録お願いしますね」一番大事なことを忘れるところだった。


 「シャインデザイアーに正式加入ですね」とエミリーさんが事務的に話を進めるが、雰囲気ががらりと不機嫌に変わったのを感じた。

 「私が冒険者だったら・・・・・・なんでギルド職員なんかやっているの?」聞き取れないほどの小さな声でブツブツとつぶやく。

 いや、ちゃんと聞こえてますよ?そんな事言われても、エミリーさんは近所の優しいお姉さん程度にしか思ってなかったですから!やっと3人に対する気持ちに気づいて告白したばかりですからね!波風立てるような発言は控えてください。


 案の定、クロエ達3人のエミリーさんを見る顔には笑顔があるが、背後に般若の幻影が浮かぶ。

 3人にもしっかりと聞こえたようで、俺の背筋にも悪寒が走る。


 俺は、聞こえないふりをして事務的に手続きを行なう。

 そうして、4人のカードに俺がシャインデザイアーのメンバーになった証が刻まれた。

 クエストは、4人での討伐についての実績を考慮して許可がおりた。


 この世界に来たときに、変えられた10振りの刀については、すべてを試したわけではないので今回、刀身がうっすらと朱色に輝く物を脇に挿している、腰にはククリナイフもあるし胸にはいつものサバイバルナイフもある。

 装備的には、過剰とも言えるが刀の威力が分からないので、超近接戦のそなえをしている。


 リマドに向かう道中はのどかだ、3人がぺちゃくちゃしゃべりながら歩く後ろをついて行く形で歩いているがさすが冒険者である、歩く速さはそれなりに早い、一般の人ならすぐに息が切れるんじゃないかな。

 このまま行けば次の宿泊予定の街には結構早い時間に到着できるだろう。

 さすがは王都近郊だけあって一日で歩く距離に街がある。王都から離れると、街と街の間が結構あって野宿もあるそうな。

 日が天辺にさしかかる頃、昼休憩を取るべく街道近くの木陰に座ることとなった。

 鞄から、薪やら鍋、食材を取り出し、薪の上に鍋をつるせる様に木枠を組んだ。

 鍋に水をいれ、薪に火を付ける。湯が沸くまでに野菜や肉を切ると豪快に鍋に入れる。


 「いつも貴方と遠征すると思うのだけど、こうして温かい料理が食べられる事が、不思議よね。普通は、危険を避けるために携帯食で簡単に食べるけどね」とクロエがいう。


 「いや、ここは街道で見晴らしが良いから安全でしょ?」と返すと3人が呆れた顔をする。


 「街を一歩出れば、野盗とか魔物がいるから十分危険なのよ?だから普通の旅人は、護衛を付けるし雇えないような個人の旅人は、命がけの旅になるのよ!」


 旅といえば乗り物で移動していた頃の感覚がまだ残っていたと思い知らされた。

 ここは、移動にも命がけの世界だと改めて思い知った。


 気持ちを改める昼食を、済ませてまたひたすらに街道を進む。

 この日は、何事もなく進むことが出来て、日が高い内に宿泊予定の街に着いた。

 街はさほど大きくなく、宿も4軒ほどしかなかった。

 その1軒の扉を潜った。

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無双剣士は異世界でスローライフを送りたい モッチー @motyy

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