第11話 エリザベートの正体
「おじさま、鍛冶屋とのことより、あの男についてどのようにお考えですか?」
領主が、別のことに気を裂いていることに気がついて軌道修正するべく言葉を放つ。
「ああ、そうであった。昨日の報告では、あの男の弓の技術については目を見張るものがあると聞いた、それに剣については曲剣で、光りを反射しない特別製であったな」
「はい、あのような剣は見たことがございませんわ」
「暗闇で、使われたら切られたことすら分からずに死んでいそうだな」
「足裁きも、見事でオーク兵を一撃で屠るほどの技術を持ち、何かを隠しているようなそぶりも見受けられました」
「おまえは、やはりギルマン帝国の刺客の可能性を考えているのか?」
「ええ、貴族の中にギルマン帝国に通じている者もいるようですし、オークの部隊や彼の登場には、作為的なものを感じますもの」とうなずく。
「混乱に乗じて、トルモンド家を滅ぼそうと?」
「だから、こうして私がおじさまの所に参りましたのですから。父上もおじさまのことを気に掛けていましたわ」
エリザベートは現国王と平民出の母との間に生まれた庶子であり王位継承権を持たない。
歴代の王は10人以上の側室を持っていた、強者に於いては100人の側室がいたとの記録があるほどであるが、現王には妃の他には二人の側室しかいない。
母は第三夫人という立場を賜ったが、妃の第三王子の乳母でもある。行儀見習いとして王宮にメイドとして仕えていた時に、お手つきとなりエリザベートを身ごもった。
正室がその後すぐに第三王子を身ごもったために、乳母の役目が回ってきたという複雑な環境で育った。
母以外の夫人は貴族の高位の姫であった事もあり母は、他の夫人のことを考えて貴族との関わりを一切していない。
王はエリザベートの母のことを思い以降、新しい妻を迎えることをやめたのだ。
そんな王とオーグストは双子の兄弟である。過去に双子の王族で争いがあったことで先代が、オーグストを臣下としたためにトルモンド姓を名乗りながら伯爵として王都周辺の都市を、領主として治めている。
エリザベートは、出自を理解しており姫と呼ばれることをあまり好んでいない。
貴族間の道具として降嫁するよりも市井に降嫁したいと想っており母の実家によく出入りし、その姓を名乗ってきた。
そのため、オーグストも、自分とエリザベートを重ねて見ることが多く、幼い頃から可愛がってきた。
今回エリザベートが、トルモンド伯の元を訪れたのは、乳姉弟であり異母姉弟である第三王子が襲われたからである。
護衛騎士の命を賭した守りで、命は助かったものの、未だ意識が回復していない。
一緒に育ったため、他の兄弟と異なり最も仲の良い弟で、エリザベートによく懐いてくれてたので失いたく無い存在の一人である。
賊は、失敗したことで自害したためにその後ろ盾が誰なのか分からないが、計画自体はおぼろげながら分かってきている。
隣国のギルマン帝国と手を組みトルモンド王国を滅ぼし、自分は広大な領地と利権を得るために、画策を行うというものであった。
暗殺の対象には、トルモンド伯も含まれておりそれ故に、叔父を心配しての訪問であった。
「だいたいの事はシシィが届けてくれた書面で確認した。私のことより、ジョージの容態はどうだ?」とエリザベートを愛称で呼んで第三王子の事を心配してくれる。
叔父の優しさにほっこりするも現状の厳しさに心が痛む。
「芳しくありません。衰弱の呪詛が付与された剣で傷を負ったため、ヒーラーの結界で進行を止めているため死ぬことはありませんが回復の見込みもありませんもの」と、思わず苦渋の表情が出てしまう。
「おじさまも、警戒には充分気をおつけくださいませ。シンノスケの件に付いては引き続き調査を進めさせていただきますわ」と言うと、暇乞いをして席を立つ。
「シシィ、おまえも王の血族ということを忘れるな。ここに来るだけでも命を狙われたのだからな!」
「心得ております。気を抜くつもりはありませんし、父上から優秀な近衛を3人もお借りしたのだから」とにっこりと笑うと執務室を出て言った。
トルモンドは、あの娘は分かっているのか?周りがなんと言おうと、自分がどのように思おうと我が兄の、王の血を受け継いでおり為政者としての能力があると言うことに、そのことに皆が気づいたときにどのようになるのか、とため息をつく。
実は、エリザベートは自分の能力を誤って解釈していた、自分の能力は、為政者に使われてなんぼのものだというふうにだから”3人も”と言ったのだ。叔父の言葉が正しいなら“3人しか”になってしまうのに気がつかなかった。
エリザベートは、次の用事のために領主館を後にした。弟の呪詛を解呪するためのポーションを作って貰うために職人ギルドに依頼を出すのだ。
「ジョージ待っててね、すぐにお姉ちゃんが解呪のポーションを準備させるから」
その瞳は、弟のいる王都のある方角の空を遠く見つめ自分が出来ることに、精一杯努力しようと決意に満ちいていた。
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