第10話 領主への報告

 天蓋付きの豪奢で3人は楽に寝られるような大きなベッドの中で、目を覚ます。

すでに日は、昇り地平線と天中との間ぐらいまで来ている。部屋の中も結構暖かくなってきた。

いつもは、日が地平を離れる頃に起き出すが、昨日は色々と考え事をしていてなかなか寝付けなかったためもある。

 「お嬢さま、お目覚めですか」お付きのメイドから声が掛かる。

 

 「おはよう」と返し、ボーとした寝ぼけた頭を起こすべく今の状況に思考を集中すると、だんだんと頭がさえてくる。

 「昨日の、彼の事について調べは進んでいる?」


 「はい、そのことについては後ほど、報告を受けた者よりご説明いたします。まずはお着替えを」


 ベッドから、のそのそ這い出すとメイド達によって着替えと髪の手入れをして貰い食堂へと移動した。


 遅めの朝食をと言っても、紅茶とサラダにビスコッティを3枚と軽すぎる朝食を取り終わる頃に、「御館様のお仕事が、一段落付いたご様子です」と執事が静かに申し出た。


 「そう、おじさまには調査の結果は報告されたのかしら?」


「現在も調査の続報が届いており、御館様はお嬢様と一緒に報告を聞くとおっしゃられています。」


「分かりました、これから伺うと伝えてください。おじさまと一緒に報告を聞かせて貰うから」


「かしこまりました、ではこちらへ」と執事が扉のほうに歩いて行く。


 3階の一番奥にこの館の主の執務室があり、長い廊下を執事に案内されて歩く、彫刻で装飾された重厚な扉の前に立つと執事が扉をノックする。

 中から、「誰か?」と誰何する声が掛かる。

 執事が、「お嬢様をお連れしました」と声をかけると扉が内側に開いた。

 中は、赤いふわふわの絨毯が敷き詰められいてビロードのソファーが置かれ、壁には革張りの本がぎっしりと並んでいる。

 奥に大きな執務机が置かれ、服の上からも分かる筋肉質で騎士然とした男が座っていた。窓が開かれているが、香が焚かれていて、部屋はかすかに、ハーブの香りが漂っている。

 彼は、この館の主にして、この地方を治める領主オーグスト・ネスト・ド・トルモンドである。


 「おはようございます。おじさま」とスカートを摘まみ優雅にカーテシーを行う。


 「昨日は、ずいぶんと遅くまで起きていたようだね。疲れは取れたかい?」と優しく微笑んでオーグストは席を立つとソファーに座るよう手招きをする。


 「少し考え事をしていたため、寝付くのが遅くなりましたが、疲れは取れましたわ」と言ってフワリとソファーに座る。


 ソファーに二人が座ると、メイドがハーブを茶器で淹れ、黄金色に輝く茶をカップに注ぎ二人の前に出した。


 執事の一人が一歩進み出ると深く一礼をした後に「昨日の件について、ご報告させていただいてもよろしいでしょうか?」と発言の許可を求めてきた。


 「ああ、結果を頼む」


 「はい、くだんの者は、昨日“アンナの巣箱”という宿に泊まり、お嬢様の進言どおり冒険者ギルドに本日登録を行いました。門でもギルドに於いてもシンノスケと名乗っており偽名ではないことが確認されております。出身地をカラマと述べておりますが、該当する地域が確認出来ませんでした。」


 「フェイスト帝国にそのような地はないと?」


 「はい、ございません。隠れ里の可能性もありますが、現在もその地については調査中でございます。」


 「あい分かった、それで?」と先を促す。


 「はい、その者は登録を始める前に、冒険者の洗礼を受けましたが、これを躱しました。登録後に、再度絡まれましたが、一瞬のうちにこれを撃退しコッコロの店で弓を購入。再度、冒険者ギルドに戻りクエストを受注すると西の森に向ったとのことです」と締めくくった。


 「シンノスケは、弓を持っていたと思いますが、どの様な弓を?」とエリザベートが聞く。


 「白鯨の弓でございます」


 「あの頑固者が、よく手放したものだな、いくらだ?」腕を組んで、顎をなぞりながらオーグストが興味本位に聞く。


 「かの者の察知する能力が良すぎるために、近寄れず正確な値段までは分かりかねますが100万は超えていないかと」


 「馬鹿な!素材だけでも数百はするはずだぞ」と目をむく


 「おじさま?白鯨の弓とはどのような物ですの?」とエリザベートはコテリと首をかしげる。


 よく知らぬ物は無いと豪語する姪の言葉に水を得た魚のごとく「おまえでも、知らぬ物があるのか?」と意地悪くにやりと笑う


 自分の事をことあるごとにからかってくる困った叔父だと思いながらも、ここは素直に「武器のたぐいは、あまり好きではなく、特殊な物しか覚えていません」と表情を変えずに返す。


 そんな姪の微妙な変化を見逃すはずは無くオーグストは、気をよくしたのか「海の神獣級の魔物でな、それ故に捕獲が非常に難しく、体のすべてが貴重な素材だ。特に骨は武器の素材として高値で取引される」とそこまで話すとカップのお茶でのどを潤した。


 「コッコロと言う者は、非常に変わった男だ。半分引退したようなものだが、この町一番の技工士だ。若い頃にその素材を偶然手に入れて作ったのが、白鯨の弓と呼ばれておる。扱いが難しいので未だ売り渋っていると聞いていたんだが」と何が、この気むずかしい男の琴線にふれたのかと思考を始めた。

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