第35話 午後の授業2

 ライアン先生が、号令を掛けると皆が集まってきた。

 「今見て貰ったとおりシンノスケの技術は素晴らしいものがある。そこで今日は、 趣旨を変更してシンノスケを講師として皆には講義を受けてもらいたい」

 異議を唱えるものは出なかった、おそらく模擬戦闘の後半はただ凄いと言うだけで、何が起こっているか分からなかっただろう。

 「異議がないようなので、シンノスケ頼むよ」急に振らないでくれよと思いながら。


 「変なことになってすまない。新参ものが急に講師になることに違和感があると思う。抵抗のある者は、見学して貰っても構わない。その場合壁際まで移動するように。それで単位を付けないと言うことはない。あと、皆の体の状態を調べさせてほしい。筋肉の状態を触って確認するだけだが、急に知らない男に体を触られるのも抵抗有ると思うから手を上げてほしい。これも強制じゃないから少しでも違和感のある者は遠慮無く手を上げてくれ。むしろ此方がありがたい」と言うと周りを気にしながら女子の2人がおずおずと手を上げた。

 「ありがとう。手を上げるにも勇気がいっただろうそれで良い」

 壁際に移動する者はいなかった。

 皆には、一列に整列して貰って目の前に行き、全身に力を入れて貰うように頼んだ。

 素直に整列してくれた俺が前に立つと、全身に力を入れてくれる。腕や肩、背中、足と順番に筋肉の付き具合を確認していく。

 手を上げた女子には全身に力を入れて貰って外観だけで確認を終えた。

 全員の体格を確認し終わったので、今度は庭を15周して貰う。途中、体力の具合を見て限界なら俺が、引っこ抜くと伝えた。

 普段から鍛えているので、途中脱落させる者はいなかった。

 ランニングの後は、剣の素振りである。ひたすら剣を振るう姿を見ておかしなところが有れば、適時指導していく。

 500回振らせて途中筋の良い者は、俺との打ち込み練習を行うことにして、悪いとこは修正するように言うと素振りに戻す。

 500回の素振りを終えると、生徒たち同士の乱取りを行わせた。

 訓練の終了の鐘が鳴ると皆は、ぐったりとその場に倒れ込んだ。

 「「ライアン先生より、きつい」」皆口々に弱音を吐く。

 「これぐらい、普通に出来るようになれば、即戦力の補助ぐらいにはなれるよ。

 経験を積めば上位ランカーの近道になれるんだから文句は言わない」と釘を刺しておく。

 「あと、走り込みは毎日行うこと、天候の悪い日まで走れとは言わないが、家でスクワットなんかをすれば走り込みの代用にはなる。4日走ったら、次の日からは1周追加していくようにな。やるやらないは、自主性に任せるが卒業時に皆と比べたら面白いことになるからな。以上今日の授業はここまで」

 先生に、向き直り「こんな感じで、皆の訓練をさせていただきましたが、いかがでしたか?」

 「面白いものを、見せて貰った。参考になった部分もある。助かった、ありがとう」と肩をポンポンと叩きながら礼を言われた。

 先生が「いつまでもへばってないで、整列!最後の挨拶を済ませるぞ」号令を掛けると、重い体を起こして整列して「「「ありがとうございました」」」一斉に挨拶を交わした。

 教室に戻ると、ロイが席によってきて「シンノスケは、結構スパルタなのな!もしかして、俺たちへの、嫌がらせ?」

 「アホか、魔物と対峙したらあんなもんじゃすまない、相手は待ったを掛けないしへばったらその時点で、この世とおさらばだ。そうならないように、ここで訓練してるんだろ?」

 「それはそうだけど・・・・・・」弱気な回答が糧ってきた。

 「じゃあ頑張って体を鍛えろ」ハァとため息をつきながら言う。

 「ほんとに強くなれるのか?」

 「当たり前だ、俺も教えた限り、皆には冒険者として成功してほしいからな」本心でそう思う。

 前世でも、道場で教えていたのだ、私怨なんかで訓練で嫌がらせをしたりしない。


 皆、ヘロヘロになりながら一人一人と教室を出て行く。

 「明日俺、午後の授業は、魔法の講義に出るから安心しろ」気休めながら言うと

ロイは「ライアン先生が、目を輝かせて授業の内容を見ていたから、明日からはたぶんシンノスケのまねをして授業をするかも。そう思うと憂鬱になるぞ」恨めしそうに、睨んでくる。

 あはは、申し訳ない。でも強くなるためには、通らなければならない試練でもある。

 「2,3日したらなれる。がんばれ。今日より明日とだんだんと強くなっていくんだ。早く一人前の冒険者になるんだろ?」

 「それはそうだけど、ハア。我慢して頑張るしかないのか。じゃまた明日」というと肩を落として教室を出て行った。


 冒険者になるには、自己の力がものを言う。だからがんばれ!後ろ姿を見送りながら心の中で応援した。

 実際、ロイは、中々筋はよかった。頑張れば、直に頭角を現すだろう。

 相当遠くない日に、上位クラスの仲間入りをするだろう。

 それまで精進してくれ。


 さて、俺も宿に帰るか。

 気づかれしたので、美味しい夕食で鋭気を養うとするか。

 校門を出ると、後ろを振り返り校舎を見上げた、今日知り合った仲間が、死なずに冒険者を続けられると良いなと思いながら見上げる校舎は、夕日をバックにしているためシルエットになっているが冒険者を守る為に存在しているとでも言いたげに圧倒的な存在感をさらしていた。

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