第34話 午後の授業

 昼食の後休憩を挟んで、午後の授業を始まる時間になったので校舎を出て庭に出て来た。

 一辺が50メートルほどのさほど大きくない庭は魔法と剣術で分かれて実技が開催される為にもう一つあるらしい、それぞれが分厚く高い壁で区切られているとのことだった。

 俺たちは、剣術の講義を受ける庭にいる。赤髪の少年はあの後、自分をロイと名乗った。

 ロイも剣術を習うようでこの庭で授業が始まるのを待っている。

 壁には二つの門が有り俺たちはその片方から出て来たわけだが、反対の門から一人の中年男性が出て来た。

 顔は女性を思わせる優しい面差しで微笑んでいるように見える、瞳は水色で、腰まである青い長い髪を一纏めにした男性の筋肉は固く引き締まっている。

 身長は、190センチくらいはあるだろうか結構高い、肩幅も結構あるので顔と体のバランスが微妙な感じがするのは、前世の感覚が抜けていない所為かもしれない。

 講師が号令を掛けると皆が一斉に掛けだし先生の前に半円状に集まった。

 「今日新人が来るってきていたんだが・・・・・・ああ君か!名前を聞かせてくれ無いか」見た目通りの甘い声で俺を見た。

 「シンノスケです。よろしくお願いします。」

 「ああ、よろしく。私は、剣の講師をしているライアンだ。君は実際に魔物と戦っているとのことだが間違いはないかい?」

 「一昨日にも、討伐して来ました」と答える。

 「するとスタンピード阻止の功労者は君だったのか」微笑みを崩さず質問してきた。

 それを聞いた生徒がざわつく。

 「俺だけの功績じゃ有りません。俺より高位の仲間が居たから出来たことです」嘘ではない、ランクはEでも俺よりは高いんだから。

 それを聞いた生徒たちは、高位の仲間と言ったので、なあんだという顔になった。

先生を含め全員が、仲間の功績を自分の功績のように言ってるように捉えたようだ、今はそれでいい。

 「授業を始める前に、君の実力を確認しておくよ。皆は壁際で見学、シンノスケは得意の模擬戦武器を取って中央へ」簡潔に指示をだしたので、皆は壁際に並んだ。

 俺は、ショートソードを手にして中央に移動する。本当は、日本刀のような片刃の曲剣が一番しっくりくるのだが、ここにはない。

 戦場では武器を選んでいられない事があるために、ある程度は扱える様に訓練はしてきた。

 先生もショートソードを持って中央にやってきて「いつでも良いぞ!隙を突いてこい」と声を掛けてきた。


 隙を突けと言いながら、一カ所だけ隙を作ってかまえるそれは嫌らしい。

 「お願いします」と答え構える。素直にその隙を突くのはなんか爵に触ったので、あえて構えている剣を落とそうと「ハッ」と短く息を吐き、剣幅2つ分下げて相手の剣を潜りコテを狙う。

 もちろんベテラン講師に通ずるはずもなく簡単にはじかれる。先生はすぐに頭を狙ってくるが、はじかれることを想定済みだから剣の軌道を変えるように斜めに構えて先生の剣を受け流した。

 多くは剣を受け止めるべく剣を振るのだが、自分の剣が俺の頭に当たらず横を通る様を見てにやりとする。

 バックステップですぐさま距離を取ると「面白い剣の使い方をするね。君の剣技に興味が出て来たよ」と楽しそうに笑った。

 それには答えず、正眼の構えを取りすり足で間合いに入ると先生の左側頭部からの袈裟懸けを振るうが、簡単にはじかれる。

 続けて八方向から剣を入れていく、先生も受け身ばかりではなく攻撃を仕掛けてくるが時には受け時には流したり、躱したりしながら刀を振るうと距離を取った。

 「どういうつもりだい?君の実力はこんなものなのか。だとしたら君には失望するよ?」

 「いえ、単なる肩慣らしです」と返した。

 「ほう。すると君は見せるために剣を振るったのかな?だったら、少しは本気になってくれないと君の実力が分からないじゃないか」微笑みを絶やさずに不満を言ってくる。

 ライアン先生の実力はまだ分からないが、道場の師範代は任せられるぐらいはあるようだ。

 もう少し、強めに打ち込んでみようか?

 「次行きます」そう言うと踏み込んだ。

 さっきよりは、重さを乗せ連撃を繰り出す。先生は剣で受けるが今度は受け身で一杯になったようだ。きっと手に衝撃を受けて、痺れているはずだ。それでも剣を落とさず防戦しているのはさすがという所か。

 ライアン先生からはいつの間にか笑みが消え、その瞳には獣のような鋭さが宿っていた。

 上段からの振りを繰り出すとライアン先生は、それを受け止めると左からの蹴りを入れてきた。

 蹴りを受ける前に軽く体をうかせて、蹴りを脇腹に食らう。衝撃で軽く飛ばされるが、威力は軽減された。

 剣の模擬戦と言うことで体術を使うと言うことを考えていなかったが、実際の殺し合いでは、体術を織り込みつつ戦うのが基本になる、ちょっと剣に固執してしまっていたかな?反省だ。

 「体術を使うなとはいってないぞ。油断は禁物だ。でも、とっさに飛ばされることで衝撃を緩めるとは考えたね。蹴りのダメージもないとはたいしたものだよ」しびれを取るように手をプラプラと振りながら先生が言った。

 「剣で戦うことに固執していました。勉強になりました。次は、もう少し早く行きますね。」

 「ほう!まだ本気じゃないとは恐れ入った。これはちょっとやっかいだね」というと先生が構え直して突撃を噛ましてくる。

 これ以上の模擬戦は必要ないかな?本気で行かせて貰って終わりにしよう。

 ライアン先生の、横殴りの剣を受け流し先生の首筋に剣を当て止めた。

 ライアン先生は、降参とばかりに手を上げ、剣を納めてから「君と何回戦っても勝てる気がしない、このことは上に報告するので試験のことは安心くれたえ。それと、これほどの腕前だ、子どもたちに剣の手ほどきをしてやってくれないか?」

 突然の申し出に、少し困惑するも教えるのはやぶさかではないので了承することになった。

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