第20話 境界の村

 村の入り口にてダグラスさんと門番が話をしている。俺はフィリップさんとともに御者台の上で待機中だ。

 「この後、どうなるんですか?」と聞くと

 「役人と荷車が出て現地確認と死体の回収をしてくれるさ。あのまま放ってきたからね。しばらくは大丈夫だが、隠蔽の効果が切れると獣に食い荒らされることになるし、そうなると他の旅人が危険にさらされる事になるから」

 

 放置してきた奴らの死体には隠蔽の魔方陣が施された。でないと飢えた肉食獣の餌になる。人間の味を知った肉食獣は、人を襲うようになる。これは避けなければならないシナリオだ。

 では、なぜ奴らを魔法の袋に入れて持ち込む事をしなかったか?

 じつは、人間の死体を魔法の袋に入れて持ち込むことは出来たが、みんな人を入れるのをためらったのだ。

 獣と人間では感覚が違うのだ。人は人で有り、獣は素材や食料である、そんな貴重品を入れる袋に人を入れるのをよしとする人はいない。

 戦争や事件なんかでは、専用の袋いわゆるボディバックが使われるらしいが、いくら盗賊が出るからといって対人用のそれを持ち歩くのは、ためらいがあって持ち歩く物好きはそうそういない。

 ということで先の話に至るのだ。


 色々と考えているうちに、ダグラスさんが戻ってきた。

 「役人達が。すぐに現地確認に行ってくれることになりました。後、事情徴集が有るから、それが終わるまで出発は延期です。すぐに終わりますが一泊は必要になります」と馬車の中の主に言った。

 馬車の中から「それも、必要なことでしょ!役人には極力協力をして差し上げてくださいな」と返ってきた。

 この中で一番偉いのは馬車の中にいるエリザベートだ。彼女の意向ですべてが決まる。

 俺は雇われの身だ、彼女を帝都まで護衛することが仕事だから何も言うことはない。

 すぐに、村の宿に部屋が準備されることになった。もちろん最上級の部屋で宿泊代は役人の方が負担する事になった。

 今度は、男3人と女2人の部屋割りである。いつもの、勉強は今回お預けになるが、そうあくせくする必要も無いか。


 「事情徴収は、俺が受けるからスケは村の中をぶらぶらしていても良いぞ」とダグラスさんから提案されたのでお言葉に甘えることにした。事情徴収と言っても、しゃべることが無いし、言えないこともあるから、実質無用の長物以外の何者でも無いんけどね。

 護衛の方も、アリエルさんだけで良いらしく女性の部屋にいるのも気まずいので早速、村の中を見て回ることにした。

 村は一辺150メートルぐらいの壁に囲まれた所なので、サッと見て回るとすぐに終わってしまいそうなので時間を潰す意味でのんびりと歩く。

 家の数が、25件程なのでおおよそ100人程度の村だが、領境とあって入ってきた門と反対側の所には、大きな兵舎が立っていてそれぞれ30人は居るかと思われる。

 ここはもうマグノリアの領主の領地外と言うことになるが、領境の問題解決のために、それそれの兵士が同じ村に拠点を設けている。

 村に店は一つしか無い。コンビニみたいで殆どの物がそこで購入出来る。店にない物は行き来する旅商人から買えるので不便は無いらしい。別に欲しいものは無かったので店には入らず 道端の石に腰を下ろして景色を眺める。

 直接事情徴収に参加しなくとも村かは出られないのでやむ無しである。

 村の中にも、畑が有りそこでは子ども達が仕事をしている。大人達は村から出た畑で仕事をしているのだろう。

 空には綿雲が数個浮かんでいてゆっくりと流れていく。時折吹く風が頬をなでていき気持ちいい、空が少し色づき始めたので宿に戻ることにした。


 宿に戻ると、ダグラスさんとフィリップさんは、事情徴収のため不在だった。女性陣は部屋にこもっているらしい。

 俺も部屋に入り、食事までのんびりと過ごすことにした。読書はやめにしておいた、読書中に誰かが突然部屋に入ってくるといけないからね。本を見られるのはまずいと思う。


 しばらくすると、ドアがノックされてアリエルさんからお呼びが掛かる。夕食の時間らしい。下に降りていくとダグラスさんとフィリップさんが食卓について俺たちを待っていてくれた。食事のために一旦戻ってきたらしく食事の後も、また兵舎に戻って死体の検分につきあうそうだ。面倒をかけますと心の中で謝っておく。

 ダグラスさんによると盗賊の一部がもう村まで運び込まれているらしい。一番先に頭目が運び込まれ身元確認が行われているところで賊達は、“スリーヘッドドラゴン旅団”と呼ばれる元傭兵の集まりで、頭目が3人もいる誘拐や殺人など何でも請け負う犯罪集団だった。

 変なやつに、目を付けられたと愚痴をこぼしている。賞金首には違いないとのことで、国から報奨金が出るみたいなことを言っていた。

 残りの頭目を捕らえるのに協力しろとか言わないだろうか、少し心配になってきたぞ?

 あまりの話に、食事について何を食べたか味はどんなだったか覚えていない、旅の醍醐味なのにくやしいな。

 ダグラスさんとフィリップさんは、食事もソコソコに兵舎に戻った。先に寝てて良いと言われたのでふて寝することに決めた。

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