第29話 討伐の後始末
裂け目から炎が出てから数分、いまだにその上部からは黒い煙が細くたなびいている。
近づけば、肉の焼けたにおいがする。俺が確認するといったもののさすがに、すぐに中を確認したくない。
焼ける肉といっても焼き肉のよだれが出てくるような香ばしいにおいではなく、気を許すと吐きそうになるような何とも言えない悪臭である。
酸素があるかどうかも分からないし、明かりを確保していない。
明かりが確保できたとしても、焼かれて苦しんだ状態で黒く固まった死体を見ることになる。
外にある死体は、人の形をしているとはいえ異形のモンスターであるからかろうじて耐えられる。
しかし洞窟内にあるであろう焼死体はおそらく人と認識してしまう、とすると気分的にどうなんだろう。
こちとら、現代日本の高校生である。死体といっても綺麗に化粧されて箱に入った顔をほんの少しだけ覗くだけである。しかも、死というものが何なのかわからない幼い時に、母方のおじいちゃんの葬式以外無いのである。
戦争で傷つき、体の一部をなくし血まみれで苦しむ者たちや、その死体なんざ生で見ることはない生活を送ってきたんだ。事故でそれに近い状態を見る可能性はあるが一生に1回か2回程度の確立だと思うし、不運に見舞わらなければ加害者や被害者または目撃者にならずに一生を終える。そのことがどれだけ幸せなことか。
でもこの世界は違う。弱肉強食の世界で戦うすべや守ってくれるものがなければ、すぐ死に直結してしまう怖い世界なのだから。
あれこれ考えているうちに、煙が出なくなったが相変わらず肉の焼けたにおいが漂っている。
うだうだしているとクエストが達成できなくなる。
気を取り直して、少しでも臭いを緩和しなくてはと顔に布を巻いて岩の裂け目に近づく、そばには、奴らのものである松明が落ちていたので明かりとして利用させてもらう。
松明に火をつけて中に入った。
中は焼けたにおいが充満していて、入り口近くの魔物たちは爆風で形が崩れ、炭になった何かとしか認識できない。
風が外から吹き込んでいるので、窪みに入らない限り窒息することはないだろう。
外の光が届かないぐらい奥まで来たがフレイムボムの威力が狭い洞窟内で炸裂したために威力が広範囲に渡って効いている。
焼死体は原形をとどめていないことに少し安堵した。
大きな穴を選んで進むこと数分で、突き当りの広い空間に出た。ここには二回りもの大きな影としか言いようのないやつが荒い息をしながら座っていた。
大きさ的にどうやって入ったのかと思うそれは、松明を持った俺を認識するとうなりながら立ち上がった。
手には、焼け焦げた大剣が握らており、それを振ってくる。
致命傷ともいえる大けがを負ってなお、その剣の振りは鋭く油断するとこちらが命を落とすことになるだろう。
素早くステップを踏んで攻撃を躱すと松明を放り投げた。
高く放り投げられた松明の明かりが揺れる、落ちるまでの刹那の時間で雲海を居合い抜きに振るう。
振り上げた雲海は、相手の胸を深く抉っていた。
魔物の大将であろうそれは、一撃で絶命し大きな音を響かせ床に倒れ動かなくなった。
これで本当に戦いは終わったようだ。
床に落ちていた松明を拾い上げ安全を確認すると3人の元に戻った。
外に出てみると、クロエとソフィアは死体を魔法袋に詰めていた。
ジェシカは意識を回復しており、座って茶を飲んでいた。
体力や魔力を回復させる特別な茶なんだろうな。でなければ、自分はお荷物以外の何でもない状態のままで帰ることになるもんな。
「洞窟内は安全だ!外の始末はしておくから鉱石を探して来たらどうだ?もちろん細心の注意は必要だけどね」と言ってみんなに近づいていく。
クロエとソフィアは手を止めてこちらに近づく、ジェシカは茶器をしまうと疲れてしんどいだろうに、体を起こした。
「探索ありがとう!こちらはお願いね!」
「矢筒を置いておいてくれてありがとう。自分の分が尽きたから少し使わせて貰ったわ。ごめんなさい」ソフィアが大事そうに抱えた矢筒を差し出してきたが、帰りも必要だからと矢をソフィアに譲った。
鉱石採取は、結局クロエとソフィアが担当し、魔物回収は俺とジェシカが担当することになった。
ゴブリンは、低級の魔物で利用する部分がないため、魔物の中で成長する魔素の結晶である魔石を採取するだけである。
魔石を散り覗いたゴブリンの死体は一カ所に集められて山になっている。
放っておくと、ゾンビになるらしい。
広場にあった魔物たちの、死体は食材や利用価値がある物は魔法の袋に収納し終わった。
まあ、状態が酷いため放っておいても問題無いだろう。
広場の片付けを終え一息ついていると、洞窟探査組の二人が帰ってきた。
洞窟での探査は良好だったようでクロエは、ほくほく顔だがソフィアからは感情をよく読み取れない。
「お疲れさん。鉱石の採取はうまくいったようだな」
「ええ、奴らが洞窟を広げてくれたみたいで予定量より多く採れたわ」クロエは嬉々として報告してくれる。
「外の片付け、任せてごめんなさい。こちらも終わったみたいね」あたりを見渡してソフィアが言う。
「うん、後はゴブリンの死体を焼却処分するだけになったよ」
ジェシカが「休憩したおかげで、少し楽になったから、魔法でパパッと片付けちゃいますね」立ち上がりパッパッと服を払ってから伸びをした。
ゴブリンの山の前に立つと、ファイヤーボールを放つ。豪快な火柱を上げ徐々に炭の塊となりはててゆく。
小一時間で焼却し終えクエストが終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます