第19話 野盗VS

 奴らとの距離は、およそ2キロとまだ遠すぎて詳細は分からないが、総数30人とは馬車を襲うにしては少し多い気がする。

 馬車の中の御仁はいったいどんな方なんだ?大店のご令嬢とは言っていたがはてさて。

 そうこうしていると約1キロと近づいてきたら、気配を消してうまく隠れているが、布陣の内容が分かるようになった。

 弓兵は、樹上に4人と道を隔てた草原の中に4人、槍兵6人が森に隠れていて大剣を持った者が5人、後はロングソードを持っているのか。

 目をつぶりながら「馬車を止めてください」というと、フィリップさんが怪訝な顔をして周囲に目を配りながら「どうした?何かあるのか」と聴き返す。

 「野盗がこの先の森の中に隠れています。面倒なのを、ここから対処します」とゆっくりと目をあけた。

 フィリップさんが、小窓をノックすると小窓が中から開けられたので、中に報告する。

 「1リーグ先の森に、賊の気配が有るとスケが言っています。ここから対処するとのことです」と言うと馬車を止めた。

 「ここから対処するって、そんなに離れていてどんな方法があるんだ?スケは魔法を使えないんだろ?」ダグラスさんが批難めいた目を向けてきた。

 「決まってるじゃないですか!これでやるんですよ」と袋から弓を取り出す。

 矢筒も取り出すと、腰にぶらさげた。

 一般論で言うと、弓の有効射程距離なんてたかがしれている。飛ばすだけならいけるだろうが、1キロも離れた所から撃つというのだから物理法則を無視しているのも大概である。

 構わず、矢をつがえて上段から水平に弓をかまえながら弦を引き絞ると狙いを定めて放つ。パンという音とともに矢は手から消えた。実際は、目で追えない程のスピードで放たれたために手から消えたように見えたのだ。

 続けて、2発目3発目と撃ち続けていくと、一人また一人と弓兵を屠っていく。

 すべての弓兵を、撃ち終えると「弓をかたづけましたので、行きますか」というと、あんぐりと口を開けて惚けていたフィリップさんが、起動した。

 「ああ、分かった」と言いつつも分かってなさそうな顔で頷くと魔馬に鞭を入れた。


◇ ◇ ◇ ◇


 斥候が「1リーグ先に、馬車をとらえました。まもなくこちらに来ます」

 「よし、手はずどおりにいけ。取り逃がすなよ」と頭目が皆に檄を飛ばす。

 斥候が、怪訝な表情をしたので頭目が「どうした?」と尋ねると、斥候が「馬車が止まった。こちらの様子を窺える距離ではねえんですが」と答えた。

 突然弓兵の一人が、樹上から転落した。続けてもう一人が落ちてからようやく状況が飲み込めた。

 「敵襲、敵襲!くそ、どこからだ」いらだたしげに頭目がうなる。

 弓兵は、矢をつがえてあたりを見渡すものの気配がない。

 斥候が、「馬車からの襲撃だ。隠れろ」と叫ぶが樹上にいた弓兵は、皆落ちてしまった。

 「魔法の気配がねえぞ!あんな所からどうやって襲えるって言うんだ?」言いながら、木の陰に隠れる。

 「草のほうに隠れた弓もやられちまいました」斥候が叫ぶ。

 「くそ、近接戦に持ち込むしかねえじゃねえか」頭は憤怒の形相で苛ただしげにつぶやいた。


◇ ◇ ◇ ◇


 馬車が森に近づく。あまり近すぎると馬車を危険に晒しかねないのでほどほどのところで出ようか。

 弓と矢筒を袋にしまい代わりにグレイブを取り出すと距離を確認する。

 森まで100メートルぐらいまで近付いたときダグラスから「馬車はこれ以上森に近づけない方が良いな、スケ!いけるか?」と声が掛かる。

 「了解!いけます」とまだ動いている馬車から飛び降りると駆けだした。

 馬車はすぐに止まり、ダグラスも馬車の中から飛び出す、「フィリップとアリエルは馬車の護衛、俺はスケとともに賊を討つ」と叫び、俺の後を追いかけてきた。

 さすがダグラスさん、第1級の戦士である。結構早い。

 野盗のほうも、早く馬車にとりつこうと残った奴らが森から出て来た。

 丁度、森と馬車の中間地点で相まみえる。大剣の大男に上段から豪快に剣を振り下ろされるが、ステップを踏み躱すとグレイブを横薙ぎに振るう、大男は剣を振った後の溜のために動けずもろにグレイブの刃をその腹に受ける。腹から血飛沫が飛び散ると男は、膝を折った。

 休む暇など無く、次々と相手を変えるロングソードに合わせグレイブを振るいソードの軌道を変えそのまま相手を刺突するすぐに抜くと石突を後ろのやつの腹に入れ屈んだところで、首を落とす。

 ダグラスもロングソードを縦横にふるって敵を切り伏せていく。

 幾人かが馬車のほうに向うがフィリップとアリエルによって切り倒された。こちらもなかなかの腕のようで安心して離れた所で戦える。

 ダグラスが大剣の男と何度か打ち合いを始めた。まともに打ち合えば大剣のほうに分が有るが武技ではダグラスのほうが上である。うまい具合にいなし続けて隙をうかがっている。

 じれた男が、無理に大剣を押し込んだためにダグラスは体をひねると剣先をこめかみに入れダグラスに勝敗が上がった。

 俺のほうには二人がかりで切りつけにくる。片方の剣をいなすと柄を回して反対にいた男の腕を落とした。グレイブを回転させながらもう片方を袈裟懸けに切り伏せる。

 戦闘が終わるとダグラスさんとフィリップさんが野盗の見聞をしてくれた。

 最後にダグラスさんと打ち合った男が野盗の頭目だった。このことは次の村役人に報告することになった。

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