第18話 夜の会議と旅立ち
食事を終え部屋でくつろいでいる。といってもテーブルの上には数冊の本を積んでいて、植物に関する本を読んでいる。
王都近辺とマグノリアでは少し植生が違うようで、珍しい薬草が有るようなのだ。だから、いろんな種類を覚えて採取しながらマグノリアに帰るつもりにした。
また、魔物の領域やこの世界の法律やら、常識を身につけないといろんな意味で目を付けられ、忙しい生活が待ち受ける気がする。
俺はこれからのんびりと生活をし、お金に困らない程度にクエストで稼ぎ、悠々自適の生活をしながら各地を観光して楽しむためにも最低限の勉強をしなければならないと思っている。
そんななかで、今日のみんなの様子を思い出した。朝の視線や俺についての質問それらから、一つの推測が浮かんだ。
彼らは、俺を敵対している何かと思っているということに。
まあそれは、いくら言っても余計に疑惑を深めることになるから、信頼を得るには地道に行うしかないと思い直し、ふと窓の外を見ると月の位置が夜遅いと告げている、明日も早いのでここらで寝るとしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、エリザベート達はダグラス達の部屋で話をしていた。
「フィリップ、今日話して彼のことどう思う?」とエリザベートが切り出す。
「はい、彼自身が話したことについては、嘘をついている可能性は低いと思います。ただ、すべてを語っているとは思えません。彼が、何かを隠していることは事実です」
「彼が持っていた弓は、もしかして白鯨の弓ですか?」
「さすがお嬢様、ご明察です」
「白鯨の弓ならば、あのコッコロ氏の作ですよね」
コッコロと言えば、冒険者が身の丈に合わないのに自慢したくて高級な武具を買うのを嘆いて、王都から姿を消し、マグノリアで商売を行っていたと記憶の底からたぐりだしていると「はい、隠れるように辺鄙な場所で武器屋を開業していますが、マグノリアの住人には周知の事実ですし、マグノリアの兵士や冒険者達は、コッコロの性格を考慮して慎重に購入していますね。」とフィリップが答える。
「でも、コッコロ作の白鯨の弓って貴族が金貨を山のように積んでも売らないって聞いていましたよ?」とアリエルが尋ねる。
「ああその通りだ。ただ彼には10万で譲っている」
「はあ?10万って手間賃にもなら無いじゃないですか!」アリエルは驚愕の声を上げる。
「声が大きい」ダグラスにたしなめられてシュンとなるも「彼は、やはり何者かの配下で我々を監視しているのでしょうか?」とアリエルが疑問を述べる。
「我々を監視しているというのは、少し違うと思う。邪魔に思う勢力の者ならばすでに何か行動を起こしているはずだし、彼の行動からは推測するのが難しくなってきた」とダグラスが、頭を抱えてしまう。
エリザベートは少し考えて「結局、彼が何者かは分からない。私を殺そうと思っている者達の配下では無いという事だけれど、もう少し監視を続ける必要があると言うことは、変わりないかしら?」
「それが、いいかと思います」とダグラスが、首肯した。
「では、皆さんよろしくお願いしますね」とエリザベートが言うと、3人がはいと敬礼した。
一夜明け、早朝皆が食堂に集まり食事が始まる。
「スケ、今日は盆地を走り次の山の手前で一泊の予定だ。ただ盗賊がよく出るエリアを通るから監視と戦闘はしっかり頼むぞ。」とダグラスさんが俺に話しかける。
俺は、ボーとしながらコクリと肯く。
実は昨日エリザベート達のことを考えていたら、ラノベ的ストーリーを思いつき妄想が膨らんでよく眠れなかったため寝不足で脳が起きてくれない。
「どうした、寝不足か?」ダグラスさんがかえす。
「はい。昨日興奮して眠れなかったので、すみません。危険が近づけば、ちゃんと働きますから少し御者台でうたた寝させて貰っても良いですか」と頭を下げて頼んだ。
苦笑しながら「仕方が無いやつだな。しばらくは大丈夫だから良いが、御者台から落ちるなよ」
ダグラスさんの許可を得られたので礼を言って食事を進めた。
フィリップさんが、馬車を宿の前に回してくれたので俺は御者席の横に昇る。他のみんなが、馬車に乗り込んだのを確認すると、魔馬に鞭が入り馬車が静かに動き出した。
俺は、袋で体を落ちないように調整すると「すみません。少し眠りますね」といって目をつぶった。
「ああ、何かあったら起こすから、それまでお休み」と優しく返してくれる。
護衛の仕事なのに、居眠りを許可してくれたみんなの優しさに感謝しながらも俺の意識は深い闇に落ちていった。
どれくらい眠っていたのかスッキリとした気分で意識が戻ってきた。ただし、目はあけずに、体を馬車の揺れるままに揺らしている。
意識を集中すれば、当然のごとくクリスタルの世界になる。なだらかな草原を馬車は走っている。小さな生き物たちが、そこここで周囲を気にしながら食事にいそしんでいる。空には、大きな羽をいっぱいに広げ風に乗り舞う鳥たちがいる。のどかな馬車旅の行く先に森がある。
そこに、奴らがいた。
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