第25話 クエスト突入前

 ギルドで臨時のパーティー加入を承諾させられた俺は、宿屋に向った。

 宿の扉を開けるとジョゼが、にぱぁと笑顔を見せてくれる。

 「お早い、お帰りですね。王都までの護衛ご苦労様でした。どうぞ、部屋のカギです」と206号室のカギを出してくれる。

 「俺、1週間ほどと言って出たので・・・遅くなってすみません」と謝る。


 「王都まで、4日から5日掛かるのは承知しています。シンノスケ様のお帰りは、早くて明日ぐらいかと思っていたんですよ?それに旅にアクシデントはつきものです。無事に帰ってきていただいて何よりです」と笑顔をむけてくれる。何この神対応!惚れてしまいます~。

 若干心臓の鼓動が早くなり、顔が熱くなるのを感じて恥ずかしいので、「ありがとうございます」と声を掛けるとカギを受け取りそそくさと2階に上がる。

 後ろでクスクスと笑うような声が聞こえたような気がした。

 部屋に入ると、少し落ち着いた。袋をテーブルの脇に置き、ベッドにダイブする。

 疲れた、ごろりと仰向けになりで偉大なため息一つ。明日のことを考えると憂鬱になる。

 扉がコンコンコンとノックされたので扉を開けると、ジョゼが湯桶を持って立っていた。

 「長旅お疲れ様でした。サッパリすると思って湯をお持ちしました。夕ご飯は準備が出来ていますのでいつでもどうぞ」とにっこり微笑んでくれる。

 この笑顔には、いやされる。礼を言って湯桶を貰い早速体を拭く、確かに汗が体にまとわりついた様な不快感があった。熱い湯で体を拭き終えるとサッパリとした。

 そのまま、夕飯にありつこうと部屋を出て下に降りて行った。

 夕飯は、骨付き肉と野菜を煮込んだスープと魚の香草焼きが出て来た。スープは、塩だけで味付けされただけだが、じっくりと煮込まれているので骨から良い出汁が出て肉もほろほろと口の中でほぐれるように崩れる。野菜のうまみとも相まって実にうまい。

 魚は川魚の様だが、臭みが無く、皮がパリパリとしているが身はジューシーで香草の香りが口の中に広がり、鼻に抜ける香りがなんとも言えない味を出している。

 食事を堪能してお腹が満たされると、なんとも言えない幸せ感がわいてくる。

 礼を言って席を立つ。女将さん達は俺が満足したことに喜んでくれた。うんやっぱりここは、良い宿だ。

 部屋に戻り明日の事に思いをはせる、やはり弓とグレイブかな?矢は充分にあるし大型の人型魔物ならリーチがある方が有利だからね。場合によれば野太刀も有効だなと袋からグレイブや野太刀そしてククリナイフを取り出し、刃を確認していく。

 野太刀は、昔の時代劇や戦国時代でも人気があったという同田貫という名刀である。いや、もどきといった方が良いかな?どうも玉鋼以外の金属も混ざっているようだ。

 部屋の中では、素振りや試し切りが出来ないが、何か不思議な気をまとっているみたいで肌にびんびんとつたわってくる。結果切れ味は、最高だろうで落ち着いた。

 グレイブもコッコロさんの自信作であり、先の盗賊討伐でも遜色なく賊を切り伏せ、結構打ち合ったにもかかわらず刃こぼれ一つ付いていない。

 これならどのような場所でも、対応は可能か。いつも背に袋をしょっているからから取り出すのは・・・うん大丈夫だな。

 袋を背負い動作の確認を行うとスムーズに行えそうだ。

 武器を一通り確認し終えると大きなあくびが出た。この世界に来て立て続けに、仕事をこなしてきたから疲れが出たのかな?早く寝るとするか。


 朝、ギルド前で3人と待ち合わせをして鉱石採取のクエストのため街の北側を目指す。

 このマグノリアは、領主の館を中心に街が形成されている。領主館の外側に領主を支える貴族の館が取り囲みその外側を裕福層の市民や商店が取り囲み、俺たちが生活しているのはその南側になる。

 領主館のそばを通れば、最短でいけるが冒険者がクエストのために貴族街を通れるわけも無く、貴族街と市民街を隔てるように伸びる道を行く。貴族と言っても騎士爵なんて平民とそれ程隔たりは無く、一代限りや爵位を継げるのは一人なので兄弟が居る場合、他の子は一般市民として生活することになる。

 ただ、一般市民と言ってもそういう子ども達の多くは生活能力が殆ど無いに等しいので、兵士になる者が多い。武勲を立てれば爵位を賜ることも出来るからだ。


 そんな貴族の事情なんてどうでも良いが、3人が代わる代わる俺に説明してくれる。

 気の良い3人組は、腰まである赤いストレートヘアをポニーテールにしたリーダーのクロエは戦士である。

 背の真ん中まで伸びた薄緑の髪を切りそろえたエルフ族のアーチャー、ソフィア。

 茶色のクルクルとはねる癖毛のジェシカは、聖魔法をメインに火と水の魔法を使う魔法士で師に受かるためにもっか勉強中とのことだ。

 士と師の違いって?士は技能を有する者で、師はそれを教える者のことだ。


 ヘタレの俺からカワイ美少女に積極的に話を振ることも出来ず、もっぱら話の受け手でいろんな話が次から次へと流れていく中で、あっという間に街を抜け平原を抜けて目的の洞窟がある森に到着した。

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