第32話 ギルド長登場

 ドンドンドンとドアを叩く音で目が覚める。

 「シンノスケ、朝だよ!起きてー。ギルドに行くよー」元気なクロエの声が聞こえた。

 モゾモゾとベッドから這い出るとドアをあけるとクロエが満面の笑みを浮かべていて、その後ろに申し訳なさそうな顔をした二人がいた

 「馬鹿野郎!こんな朝早くから大声を出すんじゃねえ。他の宿泊客の迷惑になるだろうが!」声を潜ませて怒るとクロエが、シュンとなる。

 「だから、言ったじゃない。起きてくるまで待ちなさいって!ごめんね、シンノスケ。討伐報酬が出る日だから、この子ったら待ちきれなくて」ソフィアが、謝罪してくれる。


 クロエは、こういう奴だった自分がやりたいと思ったら他人の事情はお構いなしだった「分かった、朝ご飯を食べさせてくれ。報酬を受け取った後は、俺は用事があるから飯抜きだと辛い」ため息を一つついて返事をした。


 着替えて食堂のテーブルに着くと3人も席に着き朝食をオーダーする。

 「どうして、席に着くんだ?」疑問を素直に口に出せば「私たちも、朝食を食べるに決まってるじゃない」クロエが平然と答える。

 「若葉亭の食事が美味しいのとシンノスケさんと一緒に食べたいと思って、宿を早くに出て来たの。」申し訳なさそうな顔をしてジェシカが補足してくれる。

 「私たちも、若葉亭に宿替えしようかしら」クロエがのんきに言うと、頬をひくつかせたジョゼが二人分の朝食をテーブルに置きながら、「ここは、旅行者をお迎えする宿で毎回楽しみに訪れる旅商人さんがおられるので、冒険者の定宿じゃないんですよ」とやんわり拒絶の意思を示す。

 クロエが「エー、シンノスケは冒険者なのにここを定宿にしてるじゃない」頬を膨らませて抗議する。

 「シンノスケ様は、初めてご利用いただいたときは、冒険者じゃ有りませんでした。当宿のサービスを気に入っていただいて。定宿にしていただいたので特別です」としれっと返す。


 なんか4人の間に、険悪な雰囲気が漂い始めてきた。

 何だこれは、話に入りづらい。

 「申し訳ないねぇ。内を定期的に利用しているお客がいて事実上予約で一杯だよ。たまたま開いていた部屋をシンノスケさんに利用して貰っているだけなんだ。希望に添えんですまんね!」女将さんが、残りの朝食を置きながら助け船に入って来てくれる。

 「お得意さんが、居るんじゃ新参者が独占するのはどうかと思う」

 「そうですね。若葉亭さんの迷惑になるのは控えた方が良いですね」

 「むう、分かった。今回は諦める」

 3人が折れてくれたので、内心胸をなで下ろす。ジョゼは勝ち誇ったようなかおで、女将さんはすまなそうな顔で席を離れた。

 二人が離れたことで、食事を始める。

 「今回もらえる報酬ってどれくらいだろうね。新しい装備も一新したいし、美味しいご飯が一杯いつでも食べられるぐらいはもらえるのかな?」クロエが、気分を切り替えて嬉しそうに話し始める。

 「前もらった報酬から考えたら、4人で分けてもちょっとした財産にはなるんじゃないか?装備なら結構良い装備が、買えると思う。いつも利用している道具屋とか有るのか?」


 「ううん、今は道具屋巡りをしてしっくりした物があれば買っている状態かな。そのうちお気に入りの道具屋ができたら固定するかもだけど」クロエが食べながら言う。

 ソフィアが「口に物を入れながらしゃべらない」と嗜める。

 「俺は、コッコロさんの道具屋がお気に入りだけど、行ったことはない?」

 「外観がちょっとあれなので入ったことはないの」嫌そうにジェシカが答える。


 「ははは、確かに外観は悪いな。親父も客を選ぶ様な偏屈者だけど腕は確かだ。気に入ってもらえればその人に合った良い物を出してくれる。お気に入りの店がなければ、お前達が良ければだが、紹介してやっても良いぞ。一度パーティーを組んだよしみだ」


 ソフィアが「あの矢は、その店で買ったの?だったら紹介して!」と食いついてきた。

 「時間が合えば、ついて行っても良いし。俺の紹介だと言えば、悪い対応はしないと思うぞ。良ければ親父にいっといてやる」


 「「「一緒に行こう」」」三人が声を揃える。若干嬉しそうな顔をしている。

 そんな顔をされると、勘違いしてしまうじゃないか。でも純粋に嬉しくもある。


 食事を終えて、ギルドに移動することにした。

 エミリーさんに朝の挨拶をし先日の報酬について話をすると奥の会議室の一室に案内されしばらく待つように言われた。

 会議室は、コの字型に長机が配置されていたので、パーティーリーダーのクロエを上座に座らせ俺が下座にすわった。

 最初は、俺を上座に座らせようと3人が言ったが、俺は臨時のメンバーでも有りパーティーの序列を考えると示しが付かないからと俺が強く言ったので、クロエ、ソフィア、ジェシカの順に落ち着いた。


 コッコロさんの店に行く話を、詰めているとエミリーさんと、髭を蓄えた大柄な男が入ってきた、男の顔には額の真ん中から左頬に目の上を通る形の刀傷が有り黒い眼帯を付けていた。

 男が反対側の席に着き、エミリーさんが後ろに立った。

 「俺は、このギルド支部の支部長をしているアーノルドだ、お前達がシャインデザイアーか。今回のクエストご苦労だった」

 手短く、紹介とねぎらいの言葉をかける。

 あれ?俺パーティーの名前聞いてなかった様な気がするぞと、隣のジェシカの耳元に口を近づけささやく。

「パーティーの名前ってシャインデザイアーていうのか?初めて聞いた気がするぞ?」

 急に話したからか「んっ」とこそばそうに身をよじってから「あれ?言ってませんでしたか。自己紹介の時に言ったはずですが」ジト目で返してくる。少し顔が赤い。

 その表情で、やってしまった感と話を忘れてしまっていることに罪悪感がわく。

 「すまん。皆が可愛いから少し舞い上がっていたようだ。名前を覚えるのが精一杯だったかもしれない。」と謝罪するとジェシカはさらに顔を赤くし俯いて「可愛いって、可愛いって」とブツブツ繰り返している。

 普段から言われなれているだろうに、俺なんかの言葉に過剰に反応しすぎではないだろうか?


 クロエはいきなりギルドのトップが現れたことにあたふたしながらも「はい、そうです。今回魔物の数が多いため討伐依頼を出したものの、解決してしまって。準備していただいていたと聞いています。お手数をおかけしてすみませんでした」

 クロエの謝罪を手で制してギルド長は事の経緯を説明してくれることになった。

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