第15話 王都へ

 早朝、約束の場所に行くとすでに見知った馬車が待機していた。そして馬車のそばに、三人が立っていた。

 「おはようございます、遅れてすみません」と声を掛け走り寄る。

 「おはよう、約束の時間までまだ少しあるから大丈夫だよ」とその一人、ダグラスさんが白い歯を見せて、にかっと笑って返してくれる。

 馬車の扉が開いて「おはようございます。急に無理を言ってすみません。ジャンを護衛として連れ帰るのには、まだ体力が回復していないので無理と判断して代わりの護衛として、一番にあなたを思い出したので」とエリザベートが微笑みながら出て来た。

 何だろう、少しみんなの雰囲気が違う・・・そうか、目が笑ってないんだ!!何を警戒されているんだろうか?

 不思議に思っていたら逆に聞き返される。「護衛の依頼をしたのに、武器を携帯していないんですのね?」と俺の姿を下から上まで見て言う。


 今の俺は、愛用のサバイバルナイフは付けているが、背中に袋一つで腰には何一つ付けていない。

 俺は自分の袋を肩から外してポンポンとたたくと「今回は護衛の依頼なんで、長物を準備して来たんです。いざというときまでは邪魔ですから収納してます。安心してください」と返した。


 「長物って、槍ですか?」と護衛の一人であるアリエルが聞いてくるので、「ええ、そうです」と返すと「弓に、ナイフに槍とは何でもこなせるんですか!」と感嘆の声を上げる。

 「習った流派が、戦場に於いてあらゆる状況に対応出来るようにと一通り教える流派だったので」と頭を掻きながらいう。


 「あなた、記憶が戻ったのですか?」とエリザベートが問うてきた。


 しまった、つい口を滑らしたと焦るが表情に出ないよう気をつけながら「一部だけです。すごく苦労して習得したので、そのあたりから思い出せたみたいです」と言い訳する。


 エリザベートは微笑んで「それは良かったですね。少しずつで良いから記憶を取り戻せば良いですよ」と返してくれる。


 「準備は終わっていますし、全員がそろいましたので少し早いですが、出発しますか?」と横からダグラスさんが聞いてくるので、エリザベートがコクリと頷いた。


 「じゃあ、俺は御者台で護衛をしますね」と先に自分の居場所を確保する。馬車の中にいると今の雰囲気からするとエリザベートの質問攻めにあいうっかりと口を滑らしかねない。

 護衛の依頼を出した手前、この申し出には異を唱えることは出来ないだろうと思っていると、相手もそれが妥当と判断したのか、渋顔で了承してくれた。

 エリザベートが先に馬車に乗り込み続いて、アリエルとダグラスが続いて馬車に乗り込んだ。今回の御者役は、フィリップのようだ。

 フィリップとともに御者台に昇ると、フィリップが馬に鞭を入れる。

 馬車が、ゆっくりと動き出し門に向けて動きだした。

 門で簡単な検査を受けると、マグノリアを後にする。王都まで5日の旅になるらしい。

 街から少し離れたので一度、索敵をする。ごまかすために「ウーン気持ちいい朝ですね。王都までの旅が順調だと良いですね」と伸びをしながら目をつぶり周囲の確認を行った。

 クリスタルの世界では、旅人を多く捉えたがこちらに敵意や注意を向けている人はいなかった。

 「まったくだ。でも、お前さんと会ったのは戦闘中だけどな!」と返された。やっぱり、俺フラグたてちゃったのかな。

 御者台から、改めて馬車の様子を窺うと2頭立ての馬車でサスペンションがよく利いていて道の振動はほとんどない。車体はよく磨かれて光沢があり木目が綺麗に出ていた。

 馬は、目が赤く灰色の短い毛に覆われていてサラブレッドより一回り大きい、足が3倍程と太く筋肉の量が半端なくマッチョである。

 マジマジと馬の観察をしていると横から「馬が珍しいのかい?」と声が掛かる。

 「ええ、イメージしていたよりたくましいと思って」と返す。


 「こいつは、スレイプという種でちょっといわれのある魔馬なんだが、聴きたいかい?」


 「是非お願いします」と前のめりになって聞く。


 スレイプは、その昔に天かける神獣のスレイプニルが、人が飼っていた駿馬に恋をして駿馬との間に子をもうけたそうだ。この子どもの知能はスレイプニルとほぼ一緒だったが、父のように天かけることが出来なかった。プライドが高いために人に飼われることを良しとせず母を連れて魔の森に逃げた。

 3匹仲良く暮らしていたが、すぐに兄弟も増え子も出来た。穏やかな時間が過ぎていき、やがて駿馬が寿命で死んだためにスレイプニルは子ども達をつれ天に帰りたかったがかなわず、子ども達を残して天に帰って行った。子ども達は神獣の血を引いていたが寿命が有り、代を重ねるうちに獣となっていった。

 あるとき、大賢者がこの子孫を見つけ家畜化したのが今のスレイプだとおしえてくれた。

 そんな説明を受けながら途中休憩を挟みつつ進めば、昼になり山の麓まで馬車は進んで来た。

 

 「山越えの前に、昼にしますか?」とフィリップが馬車の中に問いかけると、ダグラスさんから「山を越えるのに充分に馬を休ませよう。ついでに、昼食を取るか」と返ってきた。

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