第17話 村でお泊まり

 馬車は、森の中を進む。周囲では鳥のさえずりが聞こえてきてのどかな雰囲気を醸し出しているが、ここは魔物達の巣窟でもある。いつ魔物に襲われるか分からないので警戒を密にしなければならない。

 自然と口数が減り、フィリップさんも手綱を握りながらも周囲に気を配っている。俺も定期的に目をつぶり周囲に危険な物が無いか、索敵を行う。なだらかなアップダウンを繰り返して森を進んでいくと結構急な坂が見えてきた。道には2本のレールが有り1本のケーブルが道の上に伸びているケーブルの先にはフックがある。

 レールに近付くと何かを潜った様な感覚が肌に伝わる不思議な感覚に、顔に現れていたのか、フィリップさんが説明してくれる。

 「ここは、この街道の難所なんだよ。馬車単体では峠を越えられないから、こちらと向こうに巻上機があるんだ。そして対魔結界が、レールを守っているんだ。魔法が使えて敏感な者は結界に気がつくらしいんだが分かるのか?」

 

 「魔法は使えませんが、何かを通った感じは分かりました」


 「俺は、身体強化と生活に使える簡単な魔法しか使えないからその辺の感覚は分からん。お前さん、魔法は使えないのにその感覚は分かるのか?」


 「ええ、適性はあるらしいんですが、使い方が全然分からないので使ったことすら有りません」

と話しているうちに、レールの前に馬車を止めるとフィリップさんと馬車の中からダグラスさんが出て来て、フックと馬車をつなげた。

 フィリップさんが、御者台に戻るのをダグラスさんが確認すると、ダグラスさんがレールに手をかざすと何かをつぶやいているのが見える。

 レールが、淡く点滅するとダグラスさんは馬車の中に素早く乗り込んだ。

 レールの点滅が点灯に変わるとケーブルがピンと張る。それを合図に馬に鞭が入る。

 馬車が動き出すと話の続きを始めた。

 「僕の名前は、シンノスケです。シンでもスケでも良いですからいい加減“お前さん”はやめていただけませんか?」


 「ああ悪い。お前さんいや、スケの名前は言いにくいからこれからは“スケ”と呼ばせて貰うよ」


 「ありがとうございます。“お前さん”呼ばわりだと、なんか疎外感があってさみしかったんですよね。その方が嬉しいです」と微笑む。


 不意に、御者台の下の小窓が開いてダグラスさんが「それは悪かった。俺たちも“スケ”と呼ばせて貰うが言いかい?」と声をかけてくれるので「はい!もちろんです」と返した。

 

 一気に峠の頂上まで昇ると下りのケーブルに付け替え峠を下る。

 後は、またなだらかなアップダウンを繰り返すうねうねと曲がった道を進んでいく。


 のんびりしすぎなので「結構穏やかなんですね。もっとこう、魔物が襲ってきて戦闘が繰り広げられるかと思っていました」とふると。


 「普通こんなもんだ。前回が異常なだけだよ。むしろ、明日以降が本番かもしれないな」とはははと笑って答えてくれた。


 「というと、平野のほうが危険だと?」

 「ああ、盗賊が頻繁に現れる。騎士団や冒険者で討伐しているが。闇落ちするやつが多くてな」


 「闇落ちとは?」


 「安易に人の物を盗んだり、殺人を犯したりするとなるやつだよ」と教えてくれる。


 この世界のことをしらなすぎる。もっと、勉強して早くここの生活になじまなければと思い直す。


 そんなこんなで、空が色を変える頃、森を抜けた。少し先に石組みと丸太で囲った場所が見えてきた。


 「あそこが、今夜泊まるヘント村だよ」というと手綱を振るう。馬車の速度があがり一気に村の門まで走った。


 門で簡単な検査と入村料で大銅貨1枚を支払って村に入った。

 村の宿屋は、3軒でその中で一番立派な宿屋の前に止まると、「今日は、ここで泊まるよ!お嬢様の警護で降りてくれるかい?俺は馬車を裏に回してすぐに行くから」と言われたので素直に馬車から降りた。

 今まで出していた弓矢を袋に仕舞い、代わりにククリナイフを取り出すと腰に付けた。

 馬車から、最初にダグラスさんが出て来て最後にお嬢様が出てくると、馬車は静かに動き出し宿屋の裏に消えていった。

 ダグラスさんを先頭に宿に入るもちろん俺が最後であるが。

 宿に入ると、女将さんが出迎えてくれるダグラスさんが「二人部屋と三人部屋を一つずつ頼む」と簡潔に伝えると、女将さんが申し訳なさそうに「三人部屋は先ほどご利用になられました。二人部屋2つと一人部屋ならございます。その分宿代はサービスさせていただきます。いかがなさいますか?」と深々とお辞儀をして言った。


 「僕なら、大丈夫ですよ?」というとダグラスさんは、すまないという風に片手を上げると女将さんに「それでいい、馬車を止めたらもう一人来るからそれから案内を頼む」と言った。


 「かしこまりました。宿代を大銅貨13枚にさせていただきます。お食事代はお一人大銅貨4枚になりますのでしめて、えーと・・・・・・大銅貨33枚になります」


 宿屋の女将でも村になると、計算のほうは少し危ういのかな?と思ったが、今夜の寝床が確保出来たので、ここはスルーしときますか。


 男女で部屋を分かれて、荷物を整理した、といっても鞄を部屋の隅に置くだけなんだけどね。

 しばらくしてドアがノックされる、食事の時間だ。みんなでぞろぞろと移動した。

 食事の時、他の皆は結構お酒も入ったが、エリザベートと俺はミード水を頼む、そして出て来た物は普通に美味しかった。

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