第8話 トラブル

 出口に向うとすぐに、先ほど会った大男が立ちふさがった。後ろにいた仲間の5人が僕を取り囲むように回り込む。

 「てめぇ、先ほどは嘗めたまねしやがって。落とし前つけろや」とすごんでいる。

 はあ!どこにでも居るんだな、自分より弱いやつの懐を当てにするやつがと思いひとつため息をつく。

 「さっきは、あなたが僕をからかっただけですよね?何処にあなたを侮辱する様なことがあったんですか?」


 「その態度が、俺達を嘗めていると言ってるのが、わからんのか」とつばを飛ばし、だんだんと顔が赤くなっていく。

 きっちゃないなーと思うが言えばどうなることか。


 冷静に対応する事で見ている人に正当性を認めてもらえるだろう。すぐに、警察に似た組織の人たち、こっちでは衛兵とかかな?が来てくれるだろうし。

 この考えは後に甘かったと知ることになる。冒険者のトラブルは冒険者でと言うルールがあることに。


 男達は、手を出してこない。すぐに、手を先に出した方が負けだと判断が出来たのでこちらも手を出さないよう気をつけながら

 「落とし前とはどういう風に付けるんですか?こんなの初めてなんで分からないんです」


 「ガキじゃないんだ。自分で考えろ。誠意を見せろと言ってるんだ」とすごむ。


 ああ!金というワードをこちらに言わせる気か。換金の場面を見ていて甘い汁をすすりたいのか。

 「誠意とおっしゃるが、誠意にも種類がありまして。お気に召さなければ誠意と言えないでしょ?ご希望の誠意とはなんですか?」と逆に言わせてみたい。

 「誠意はひとつだ。ガキでも知っているぞ!」となれているのか自分から言えば、恐喝になるからか遠回しにしか言わない


 「じゃあ、その誠意を僕の口から言わせて見せてください。ほんとに分からないんで」

 その気になれば、一瞬でこいつら程度は落とせるが、そうすれば逆にこちらが悪者になってしまうからね。


 怖がらずにのらりくらりと返事をする僕にしびれを切らしたのか仲間の一人が近づくので、これ幸いと僕もそいつのほうに体を動かし不意に「あいた!誠意に付いて聞いているだけなのに 蹴らないでくださいよ」とわざと大きめの声で言ってやった。


 近付いてきた男は、失敗に気づき慌てて「蹴ってねぇ。てか触ってもいねぇ」と顔を青くする。


 「きさまぁ、冗談抜かすんじゃねぇ。こいつがいつおまえを蹴った?」と大男が思わす胸ぐらを、つかんできた。

 これで、正当防衛を主張出来る様になった、さっさとのして武器商店に行きたいな。

 「やっと、行動してくれましたね」とにこりと笑ってやった。


 大男はその言葉を聞くと、自分たちが先に手を出してしまったことを悟り、反撃されないうちにと拳を握り振り抜こうと構える。

 ゴゥと大きな拳が顔に近付くが、胸を掴んだ手を外し、拳を掴んで勢いのままひねる。

 男の体が掴んだ手を中心にくるりと回り床に沈むと大きな音とともに土煙が舞う。


 自分の攻撃を、もろに自身に受けて大男はガハッとうめき伸びてしまった。無理もないあれだけの威力で叩き付けられたのだ、肺から空気が全部抜けて、相当苦しいはずだ。


 他のやつを、軽くにらんでやったら一撃で伸された男を見てびびっている。

 二人が男を両脇から抱えて逃げるように出て行った。

 周りを見ると、遠巻きに他の冒険者が唖然とした表情で見ていて、そのうちの一人が声をかけてきた。大剣を差し頑丈そうな鎧を装備しているので高位の冒険者かな?

 「今のはなんだ?やつが勝手に宙を舞ったように見えたが?」


 「あ~その~、僕のふるさとの体術でして、弱い物でも相手の力を利用して投げる技です。少し練習すれば誰でも使える物です」と答えるも、大男を宙に舞わすのはどんな技術でも相当の鍛錬は必要である。


 「いや、そんな簡単なもんじゃない!ほとんど理解出来ない早業だった」

 さすが高位の冒険者、ちゃんと理解していらっしゃる。

 「あははは。その辺は見逃してください」と返すしかなかった。


 「まあいい。冒険者のもめ事は冒険者で解決する決まりだからな。でも、ギルド内で派手にやらかしたから、後で、事情を聞かれるかもしれないぞ、そのつもりでいた方が良い」と親切に教えてくれた。体術に関しては、深く追求する事を、やめてくれることにしてくれるのか。


 「ご忠告ありがとうございます。喧嘩を買った僕も悪いですしこれから注意します」とペコリと頭を下げる。


 これで話は終わりとばかりに、冒険者達は散っていくが、話しかけてきた人が残り話を続けてくる。

 「この町ははじめてか?これから、どうするんだい?」


 「ええ、初めてで右も左も分かりません。武器屋をさがす予定です。えっと、ほしい武器があるので有ったら購入後に、今日中に出来そうな依頼を受けに戻ってくるつもりです。今の装備では少し心細いので」と腰のククリナイフを軽くたたく。


 「そうか?結構良い物のように見えるが、まあだったらギルドを出て、左へ行け一つ目の角を右に曲がれば商店が並んでる。俺のおすすめは、コッコロの親父の店だ。一度覗いてやってくれ」と手をひらひらと振ると少し離れたテーブルへと向っていった。テーブルには5人の男女がジョッキを片手にこちらを伺っていた。

 みんな、美形だし装備が豪華だ、さぞ有名なチームなんだろうなと思い、一応そちらに向って一礼をするとジョッキを掲げて微笑んでくれた。気のよさそうな人たちだ、ああいう人たちと仲良く出来たら良いなと思い冒険者ギルドをあとにした。

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