第27話 討伐

 「本体を叩かないと、じり貧になるぞ」


 「解ってるわよ、でもこれじゃあ前に進めないわよ」と怒鳴り返すクロエ、蔦は後から後から増えてくる。

 ソフィアに至っては、なれないショートソードで蔦を捌くので手一杯のようだ、もっとも彼女は無口な方で、言葉を発しない。


 「ジェシカ!あっちに向けて大量のカッターを飛ばせないか?」と本体がある方向を指さす。


 「無茶言わないで!今ある触手で手一杯なんだから。ちょっと待ってよ」


 彼女たちによると蔦は、エロゲーなんかによくある触手扱いであるようだ。

 もちろん、俺はそんなのには手を染めてはいない。なぜそう言えるのかは、悪友から得た知識だからだ。


 ジェシカは、自分に襲いかかる蔦を、3本斬ると「行くわよ!良い?」と合図をくれる。

 こちらは、開ければいつでも良いので「撃ってくれ」と返す。


 いくら魔力消費が少ないとはいえ、乱発しすぎたのか少し疲れ気味のジェシカが、気力を絞ってマッドカッターを撃ってくれた。

 瞬間的に、道が出来たので、襲いくる蔦を尻目に、本体に向って疾走する。

 普通の人間では、出せないようなスピードで本体を目指す。本体は周りの草木の栄養を吸い尽くしたように、円形に広がった空間の中心にその巨大な幹をかまえていた。

 幹の太さは、2メートルを超えている。ククリナイフでどうこう出来る範囲を超えているので、袋から同田貫もどきを取りだした。

 腰に鞘を差し、刀を抜くと食人植物に対する。

 記憶が正しければ、ヒトカクシと呼ばれる蔦性植物で幼木のうちは、捕食行動は行わず、鎮痛効果のある薬草として珍重される植物だったはず。

 何本もの蔦をうならせて襲ってくる。

 太刀を下に上にと振るう、左右から襲い来る蔦にはステップを踏んで回転して躱して切る。

 本体にも一振り二降りと太刀が入る。

 本体から、甘い香りが漂ってくる。直感でこの匂いを嗅いではいけないと思い、息を止める。

 実際、体が少ししびれてきた。

 3人も、途中の蔦をしまつしながらも追い付いて来た。

 本体に、ソフィアは弓で、ジェシカは魔法を、ぶっ放す。クロエはその二人を襲う蔦を処理していく。

 俺も、本体の周りを回りながら切っていく。だんだんと傷が深くなっていくのが解る。

 何降り振るったのか突然、幹からパキッと音が鳴った。

 その音を合図に、後ろに跳躍し3人の元に戻る。幹からは連続して音が鳴り徐々に角度を変えていく。

 体のしびれがひどくなってきたために立っていることが出来ず膝をついて見守っていると、バキンとひときわ大きな音が鳴り幹には、縦に大きな亀裂が入り鈍い音とともに倒れた。

 遠くでうねっていた蔦も今は、ピクリとも動かない。

 ジェシカが、魔力回復のために腰に付けた袋から薬の瓶とコップを取り出すと、瓶からコップへ量り入れ飲み干す。

 若干苦そうに渋面をしながら「魔力回復ポーションは、いつまで経ってもなれないわ。どうにかならないかしら」と愚痴をこぼす。

 その足で、俺の元に歩み寄ると「回復を行いますね。“アンディドオゥ”」と唱えると、俺の体が、緑黄色の光りに包まれる。痺れがだんだんと引いていき元に戻った。


 「麻痺毒をガス状に噴射するとは、知らなかったな。最初から息を止めておけば良かったよ。皆のおかげで倒すことができた。解毒もしてくれてありがとう」と感謝する。

 魔物図鑑にいろんな魔物が載っていたが、数が多すぎて瞬時にその魔物の特徴とか思い出せない。経験則がものを言う世界だと改めて思った。


 「この調子で残りを、処分していきましょう。そう遠くないところに生えているから気をつけてね」とクロエから檄が飛ぶ。


 数分も歩けば、探知にかかった。蔦がうごめき始めたときにジェシカには本体の方にマッドカッターを放って貰い、魔法が通った後を走り抜ける。蔦が追い付く前に本体の前に出る。

 今度は、毒を吐かれる前に深く息を吸うと軽く吐きながら本体の周りを回り切りつけていく。

 本体から毒が出ているようだが、息を吐いているので麻痺は起こらない。

 3人もすぐに追い付き、今度はジェシカがマッドカッターで花の部分を先に切り落とした。

 放出が止まり、毒が霧散する。これで戦いやすくなった。

 後は、クロエの護衛の元、ジェシカとソフィアの遠隔攻撃と俺の根本付近の攻撃パターンがなった。

 こうなればヒトカクシは、なすすべもなく倒されるのを待つほか無い。程なくしてメキメキと音を立てて倒れた。

 向こうは、刺激のまま動く植物である。

 学習しないので攻撃方法が解ればたいしたことは無い。

 同じ事を繰り返すのみとなったので残りはさくさくと順調に進んだ。


 ヒトカクシを倒し終えて、さらに奥へと進むこと数分、窪地の縁に出た。

 窪地は岩をえぐったようなごつごつした岩肌を露出している。しっかりした岩なので飛び跳ねても崩れる事は無いだろう。

 底には、裂け目が出来ていてその前には人型の魔物が数匹立っている。少し離れた所に豚面の魔物、この前馬車を襲っていたあのオークがうろついている。

 確かに、これではクロエ達3人では太刀打ち出来ない。

 まだ他のパーティーと信頼関係を築けていないクロエ達にとって他のパーティーに依頼なんて出せないだろう。悪い奴らなら依頼料をふんだくるか、もっと酷い要求を出してくるかもしれない。

 3人にこれからの攻略の方法について、説明することにした。

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