第26話 突入
森に入る前にみんなで、再確認をする。
目的の洞窟は、ここから約1時間歩いたところにある山肌に開いた鍾乳洞で有ること。
最短コースの途中には、食人植物が数株有ること、そしてこれを迂回するルートではさらに2時間を要すること、そのルートでは目的の鉱石が彼女たちでは運べないこと。
洞窟のある場所は、開けていて人型の魔物がうろついていること、最悪なことに洞窟が住処になっていることを確認した。
「森に入ったら、火属性魔法は使えないから水属性魔法で対応するとして、どんな魔法が有効ですか?」とジェシカが聞いてきた。
「魔法が使えない俺に聞くか?・・・・・・ウーンそうだな、水系統の魔法なら、ウォーターカッターやウォーターアローなんかが有効かな?カッターには砂を混ぜて飛ばすのも有りなんじゃないかなと思うけどどうだろうか?」
「なぜ砂を混ぜるんですか?混ぜたら効果が上がるんですの」
「砂が高速で当たるとその部分が削れるんだ。一線で当たるとそこが裂けやすくなるんだ。だから、単純なウォーターカッターの水圧だけで斬るより効果は倍増だ。少ない魔力で使えるよ」
「簡単に言ってくれますね。それだと魔法の水に土を混ぜ込む行程が出ますが、物理的な土は乗らないので、土魔法と併用することになりますね。私は土魔法が使えませんけど」というとしゃがんで土を右手に一握り掴むと左の掌の上にさらさらと落とし、落とし終えると右の掌に落とすということを繰り返す。
魔法というのはそういう事ができないのか。
「泥水をイメージして、魔法の水は作れないの?」
「今までそんなことを考えて使ったことは、有りませんね。やってみましょうか」というと土を捨て、パンと軽く手をはたいた後に泥水を作る為に、魔力を練り始めた。
程なくして、茶色に濁った水球が手の間に生まれる。そしてゆっくりと回転をはじめ速度が上がるとともに、形を変えやがて円盤になった。
その円盤をそばの木に向けて投げると、さくっと木を切り裂いた。
ジェシカは、自分が作った魔法なのに愕然としてしていたが、すぐに満面の笑みとともに甲高い声で「出来た!出来ましたよ。しかも、威力は嘘のような切れ味です」とピョンピョンと跳びはね俺に抱きついてきた。
善意の攻撃は、躱せなかった。水色の瞳がすぐそばに見える。甘い香りが漂い柔らかい感触に包まれる。特に胸とか胸とか胸とか・・・
一気に体中が熱くなる、思考が停止し頭の中が真っ白になる。緊張で手足が強ばり一ミリも動かない。口はハクハクと動くが言葉が出てこない。
クロエがあきれたように、俺を見ていたがかわいそうに思ってくれたのか「ハイハイ、嬉しいのは解ったからもう離れなさい。それ以上くっついているとシンノスケが気絶しちゃうよ」とジェシカの襟首を捕まえて俺から剥がしてくれた。
ジェシカも正気を取り戻したのか顔を赤く染めている。
クロエとソフィアは笑いをこらえていたが、我慢できずにケラケラとお腹を抱えて笑い出した。ひとしきり笑うと「あんた、女の子に免疫なさすぎ何さっきのあれは」まだ笑い足らないのか人差し指で目尻をぬぐいながら尋ねてきた。
「うっさい!覚えてる限り女の子と仲良くしたことなんて無いよ。悪かったな」とキレ気味に返した。
これは、この方面で弄られるの確定かな、クロエが黒い笑みをこちらに向けている。
顔の赤みが引いた頃、クロエが「みんな落ち着いたようなので森へ入りましょうか」と提案をしてくれる。
ここで、ようやく袋からククリナイフを取り出し腰に差す。道中何かあれば袋から抜刀できるので問題ないし、これが俺の通常スタイルと説明をしていたからだが、みんなからは変と突っ込まれたいた。だって現代社会に於いて腰に何かを差して歩くなんて無いし、袋を担いでいるだけの方が楽なんだもん。
森の中は、不気味なぐらい静まり返っている、慎重に警戒しながら30分ぐらい進んだだろうか、周りの空気が変わる。
最後尾を歩いている、決して彼女たちの後ろ姿を見たいために志願したわけじゃない、初めての森だし後方からの攻撃に備えて対応するためにクロエが順番を指定してくれたからだ、だから気付かれずに探査が出来る。静かに目をつぶりあたりを警戒すると、食人植物のテリトリーに入る寸前だった。
「気をつけて、ここから食人植物のテリトリーに入るから!奴らは草の中に棘のついた蔦をあちらこちらに伸ばしていて、それで人を襲うから、捕まらないようにしてちょうだい」とクロエが注意してくれる。
さすが、調査済みと言うことか、事前準備は大事だし慎重に行動するのは良いことだ。きっと彼女たちは良い冒険者に育つだろう。
抜刀してさらに進む、今は目をつぶり草の中に隠れてウネウネとうごめいている蔦を警戒している。
奴らの、攻撃タイミングが解らないので、気が抜けない。
先頭を行くクロエが何かを踏んだ、すると草の陰から蔦が凄い勢いでクロエを襲う。
叫ぶ間もなくクロエに巻き付こうとしたところを、クロエの剣が蔦を切断する。
それを合図といわんばかりに、十数本の蔦が襲いかかってくる。
アーチャーであるソフィアは、弓が有効でないので、ショートソードを使っている。
ジェシカは、覚え立てのマッドカッターを乱発している。なれると比較的簡単に発動出来るみたいだ。通常のウォーターカッターより切れ味が良いので真剣に魔法を撃っているが、なぜか嬉々として撃っているように見える。
危ない子に危ないおもちゃを与えた感じがするのは俺の気の気のせいだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます