第42話 報告

 手入れされた芝が敷き詰められた庭園の片隅に石造りの5本の柱に支えられた、ドーム状の屋根があるテラスに一人少女が座って優雅にお茶を楽しんでいる。

 彼女の後ろには3人の侍女が、待機しており彼女の為にお茶を準備しくつろげるよう配慮していた。

 3段のケーキスタンドには、一人で食べられない色とりどりのケーキやクッキーが準備されており少女は、いつもそのときの気分により3種類のお菓子を分けてもらい食すのだ。

 ケーキスタンドには、透明のフードが被されており衛生面に気が遣われている。

 多くのお菓子が残るがそれは彼女についている侍女達の胃袋に収まる。

 少女が、廃棄することを良しとは思っていなかったため、侍女達の休憩時間に食べるよう言いつけていたからだ。

 少女の名は、エリザベート。この国の王女にしてプラダ商会の会頭の孫娘である。

 テラスに入るには、3段の階段を昇る必要があるがその両脇には、黒い糸で刺繍が施された白いローブをまとった騎士が二人、護衛として待機している。

 突然その騎士の前に灰色のフード付きのローブをまとった男が、片膝をついた形で現れた。

 フードを目深に被って頭を垂れているので男の顔は、見えない。

 エリザベートが、その男が現れたのを確認すると、片手を静かに上げた。後ろに控えた侍女達が一斉に礼をすると、テラスから出て行った。二人の騎士も侍女達と共にその席を離れる。

 主を守る騎士がその席を離れることは、いかがなものと思うが実は庭園を囲むように生えた木々に護衛が隠れ周囲を警戒している。

 皆が去ると、男は組んだ手を垂れた頭の上に掲げて、恭しくテラスの下まで移動するとエリザベートが声を掛けるのを待った。

 「どのような報告が聞けるのかしら?」短く問うと男が姿勢を崩さずつぶやくように告げる。

 その声には、魔法が込められているらしく、もしその場に他のものがいたとしてもエリザベートにしか聞こえなかっただろう。

 それでもあえてエリザベートが侍女達を下がらせたのは自分が、この男に掛ける言葉を聞かせないためだった。

 「彼の者のその後に対してのご報告であります。それは、領主様との接触を試みる行動を取っておりませぬ。自身のクエストをこなした後に、他のEランクのパーティーと一時的に組み鉱石の採取クエストを成功させました。只そのクエストには問題がありスタンピード間際の状態であったとのことです」

 「スタンピードの阻止ですか?そのときの状況は?」

 「はい。Eランクの冒険者パーティーが自身のクエストをクリアできないところを、彼の者に助力を求め、行動を共にいたしました。クエスト自体はEランクの物でしたが、鉱石を採取する場所までに、食人植物が発生していました。また、洞窟前にはゴブリンやオークなどが徘徊しておりすでに、Eランクの冒険者パーティーでは達成不可能な状態になっておりましたが、その際にはそれの指示によりまず、弓と魔法で洞窟の前にいる魔物を討ち、ある程度に減らした後、曲刀を魔法の袋からだし敵に向かいました。最後は、仲間に洞窟内に中級魔法の最上位であるマジックボムを放たせ、戦闘を終了した良しにございます」

 「曲刀ですか。それは漆黒のショートソードでしたか?」

 「いえ、姫様と遭遇したときの漆黒のショートソードでは、ございません。そのものが購入したのは、白弓とグレイプのみにございます。矢の補給に店を訪れていますが、他の武器を購入した形跡はございません。おそらくやつ自身が、隠し持っていた物と思われますが、ほのかに白く輝いていたとのことです」

 「発光していたのですか?」

 「はい。輝きからはオリハルコンかミスリル。あるいはその混合物と思われるとの報告にございます」


 エリザベートは男が今、口にした事が信じられなかった。今までそんな剣が存在したなどということを聞いたことがないからだ。

 いままで祖父や臣下を使い、あらゆる情報を摂取してきた。

 重要なことは、国王や宰相に報告していたし報告を受けてきたので、自身の情報網に自信があるし知識もそれなりにあると思っていた。

 けれどその男が言った曲剣についての知識はない、そして存在するとなると国宝級のレアな刀剣類に含まれる事になる。

 以前に、白鯨の白弓について臣下に話したことがあるが、そのときは、あえて知らぬ振りをした事がある。

 それは、話を進めるためにしたことで、その存在はすでに知っていた。

 だからその刀剣についての情報が欲しかった。


 「詳しく述べなさい」


 「はい。ロングソード並に大きく、柄もこの国のもとは形状が異なります。楕円形で、何をかたどっているか分かりかねますがすかしかはいっていたとのことです。そして片刃でも有ったと報告を受けております。遠方からの監視にてございますので以上にございます」


 遠方からでよく柄の形状まで調べ上げた物だと思う。

 異常なまでの観察眼に恐れ入るも、国を守るための情報機関としてはそのくらいしなければ、国を守れないとも思う。

 「その後のことは、分かっているのですか?」


 「Fランクらしからぬ働きにより、その資質を見極めるためギルドより強制的に冒険者学校に入校の指示が出ております」と恭しく述べた。


 「引き続き、監視を!」それだけをいうと男は、礼をするとその場から姿を消した。


 素性の分からない彼は、国に対して悪意を持った行動を起こしていない。

 思案にくれていると、冷たくなった紅茶を暖かい紅茶へと侍女が変えてくれていた。

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