第56話 告白

 今、桜色に頬を染めた美少女が3人テーブルを挟んで座っている。皆の前には、豪華とは言わないまでも、数種類の料理が並んでいて、うまそうな匂いを上げている。

 クエストが無事済んだのと、しばらく顔を見せなかった事へのお詫びもかねて食事に誘った結果、快く応じてくれたのだ。

 湯上がり美人を、愛でながらの夕食というのも乙な物で、気になる相手となるとなおさら心躍るという物だ。


 「それで、しばらくギルドに顔を出さなかったのって、あの風呂を作っていたからなのね。よく、あんな物を思いつくわね。まるで貴族にでもなった気分よ」とほくほく顔で、料理を口に運びながらクロエが言った。

 「お湯なんて、贅沢な物に入って、それも溢れさせても良いなんて信じられない」ジェシカも興奮気味に続く。

 「貴方にしては、素敵なアイデアだわ。スッキリしたし、まだ体が温かいわ」ソフィアも上機嫌であちらこちらと料理に手を出しながらも、褒めてくれた。

 3人の食欲もなかなかの物で、テーブルに並べられた料理が、どんどんと減っていく。

 そんな3人を眺めていると、自分でもゲスいと思うもののさっきから下半身がジンジンと疼いている。

 3人を好きだと自覚してからは、本能で求める物と大切にしたいと思う気持ちの間で揺れ動いていたのだが、今は3人の色気が勝っていて求める気持ちが高まった結果で有る。

 自分のこの気持ちが変なのか、思い切ってこの世界の結婚の常識を聞いてみることにする。

 「なあ、突然悪いんだが、ここら辺の結婚の常識ってどんなん?」

 突然の発言に皆が、ゲホゴホとむせる。

 「し、食事中に、な、なんて質問するのよ」苦しそうにむせながらクロエが返す。

 自分でも、タイミングが悪かったと自覚し頬を掻いて「自分でもゲスいと思うんだが、好きなやつができた。それについて全くもって常識が分からない。自分の思考がまともかどうか確認したくなって思い切って相談してみた」

 それを聞いた3人の顔色が青くなる。

 「そ、そ、そうなんだ。で、あ、相手は誰?」滑舌が悪くなったジェシカが話を継ぐ。


 「それは、まだ言えない。言えば殴られるだろうから」

 突然、がつんと頭を殴られた、見上げるといつの間に席を移動したのか、ソフィアが珍しくげんこつを作って横にたっている。

 「これで、言えるだろ?」1トーン低い声で問われた。

 背筋に悪寒が走るも「まず、俺の常識、非常識の問題だからまだ言えない」と返すとジェシカが諦めたように説明をし出してくれた。

 「この国というか、殆どの国が一夫多妻制を取っているわ。但し、実際に多くの女性と結婚しているのは貴族と裕福な商人ぐらいよ。といっても、地方の貴族は一夫一婦が多いわね」

 「生活に余裕がないのが、実情よ」とソフィアの補足で、すべて理解できました。


 この世界は、人に優しくないので人は少しのことで命を落とす。自分の子孫を残すためには多くの子どもを作る必要があり、その結果一夫多妻制になったんだろう。多くを養うには、多額の生活費や知育費などの資金がいる。

 その後聞いた話では、パートナーと認めて貰うには教会で儀式を上げること。

 意外なことに、冒険者で男女の組み合わせのパーティーで私生活でもパートナーとなる者が多いらしく中にはハーレム系のパーティーも有るのだそうだ。

 勿論、男女の混成パーティーでも、そんな仲にならない者もいるとかで、親友のように接している方もいるので異性混合のパーティーイコール男女の仲と見るのはタブーと言うことだった。

 結論としては、男は誠意を持ち平等に愛するなら、その財源に見合った女性達と結婚することができる。但し、貴族においては、貴族間のつながりのため愛のない結婚も強いられると言うことが分かった。

 ここまで聞いて、俺の感情がこの世界に引きずられている可能性が強くなった。

 まだ、性的欲望で多くの女性と関係を持つことが、好ましくないとされる現代社会の意識も強いが、ここは素直な気持ちを話す方が良いんだろうなとも思う。


 「今の説明を聞いて、考えたんだが今の気持ちを伝える方が最善なんだろうな。たぶん、今の関係が壊れるかもだけど、伝えないよりかは幾分ましな様に思う。それに、ずっと悶々としたまま今の関係を続けるのも結構しんどいんだ。今の俺じゃあ振られる確率が高いんだがな」


 3人が息をのむのが分かった。

 3人は、別の誰かを好きになってその人に告白する決心をシンノスケがしたと思って、気分が沈んでいくのを感じたが、心配を掛けないよう精一杯の笑顔を作って先を促した。


 「ありがとう。じゃあ!告白するよ」

 1拍置いて話を続ける。心臓は、張り裂けんとばかりに早鐘のように脈を打っている。

 「俺が好きになったのは、クロエ、ジェシカ、ソフィア、君たちだ。何も分からないまま、この地でやってこられたのは君たちがいたからだ、危ない目に遭って君達を失いたくないと思ったのは事実だ。ただ、この気持ちが本物の愛かどうかまでは分からないんだ。済まない、こんなゲスな発言をして・・・・・・」

 言葉が見つからなくなって、話が続かない。


 クロエ、ジェシカ、ソフィアは、ぽかんとした表情のまま動かない。

 自分たちの名前がシンノスケの口から出るとは思っていなかったので、聞き間違いではないかと疑ってしまった。

 でも自分たちの目の前に居るシンノスケの顔は、真っ赤になっているもののどこか、悪いことを告白したかのような、そんな顔をしていたのだ。


告 白が、自分たちに向けられた物だと自覚すると、体の奥から熱がじわじわと上ってくると同時にその熱が、顔に現れる。


 俺は3人の顔が真っ赤になって目をさまよわせているのに、気づいた。

 え!これって俺に3人とも気があるのか?いや普通、彼女なら自分以外の女性を好きだと言ったら激怒物だろう?彼女じゃないけど。


 突然の告白に、女性陣はもじもじしながら言葉を探していた。クロエに至っては、頭から白い煙が上がっているように感じた。

 ようやくジェシカが「好意を寄せていただいているのは分かりました」左右の二人を見ながら話を続ける。

 「私たちは、貴方のことが好きです。これからじっくりとその気持ちが本物かどうか確かめて行きましょう」と目に涙を浮かべて微笑んでくれた。


こうして、俺に彼女が3人できた。

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