第55話 謀略
魔物や魔法などまだまだ解らない事だらけで、この世界の一般常識でさえ怪しいところがあるため、朝から3人に会うためもあって、ギルドの資料室に籠もっている。
勿論、受付のお姉さんには、シャインデザイアーが戻ってきたら伝えてもらえるように言付けている。
閲覧室にて、数冊の本を置いてページをめくりながら、ふと窓の外を眺めながらまず謝罪するべきか風呂に誘うのかと、どちらを優先させるかと考えるのだった。
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広間には豪奢な服を着た2人の男が立っている。その足下には複雑に編まれた魔方陣のカーペットが引かれている。
魔方陣の効果は、「防音結界」である。結界内にいれば他の者に会話を聞かれることはない。
老齢の男が、口元を扇で隠しながら相手に確認を取る。その声は、作られたような違和感を伴っていて知らない人が聞いたら、背筋が震えただろう。
「して、進捗状況だが、どうなっておる?」
もう一人も、扇で口元を隠しながら「強硬派の一部については、此方の意のままに動く傀儡と化しております。もう少しお時間をいただければすべてが御方の味方となりましょう。ただ、親王派の力を削ぐ方に関しましてはお許しを願います。筆頭であるトルモンド伯の勢力を剥ぐことに関しましては、途中でことごとく邪魔が入り失敗に終わっております」
「何をしておる!強硬派をすべて味方にしても、親王派が健在で有れば計画が進まぬではないか」声に怒りが籠もり、額には青筋が立っている。
男は、いつ自分の首が飛ぶか分からない怒気に震えながらも答える。
「トルモンド伯の兵及び財力を削ぐために、あくまで不幸な事故としてスタンピードを起こす準備段階や採掘場の封鎖におきまして冒険者の介入が報告されております。また、別動班の王女暗殺未遂2件におきましても同様の報告が上がってきております」
「冒険者ごときに何をしておる。まさか、ギルドに情報が流れてはおるまいな?」
「滅相もございません。情報においても外部に漏れてはおりませぬし、密偵とおぼしき輩も報告されておりません」報告だけで処分されてはたまらないと、相手の顔色をうかがいながら情報を示してゆく。
男は細心の注意をはらってきた。疑わしきは罰せよと有能でもいや、有能だからこそその首をはねたこともあった。だから自分が無能と判断されたときの対処については、分かりきった事であった。
自分の前にいる人物が、早々に自分を無能と判断しないうちに、次の一手を打っているとアピールするように「それぞれの計画で、邪魔をした人物について調べさせておりますが、一人だけすべての件に関わった者がございます。この人物について早急に調査が必要と思い手配しております」
「それぐらいの能が無くては、計画を任せられん」当然のごとくとフンと鼻を鳴らして答えた。
男は、この対応に及第点を勝ち得た事に心の中で胸をなで下ろす。
老齢の男は、クイと顎で出口を指し示すと男は深く礼をして静かに部屋をでていった。
一人残った老齢の男は、無能のせいで自分の首が飛ぶのを恐れていた。
自分から持ちかけたとは言え相手に一度は、首を縦に振らせたのだ。
失敗しましたでは、済まされない。責任のすべてを自分に着せ、更には、逆賊を討ち取ったと武勲の証に首を落とされかねないからだ。
それにしても気掛かりなのが、一冒険者がすべての事件に関与してくることだ。
その者は、これからも我々に関与してくるのだろうか。脅威にはなりはしないだろうが、厄介ではある、早急に始末しておいた方が良いかもしれないと一つ駒を用意しておくことにした。
視線を部屋の隅に向けると、影が動いて一人の男の姿に変貌してゆく。
男は、片膝をついて頭を垂れた。
「一連に関与した冒険者に付いて、調べろ!邪魔だと判断したら報告の前でも消して構わぬ」
影の男は、それだけを聞くとまた影へと戻り、部屋には老齢の男一人となったが男もまた、部屋を出て行った。
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昼を過ぎ少し経ったところで不意に気になり、ページをめくる手を止めて目をつぶり気配を探る。
子どもの頃に見た多くの人物が、小さく書かれただけの絵本を思わせる様に、視界いっぱいに人の気配が出現する。
いつの間に、こんなによく見えるようになったのか戸惑うところではあるが、目的の人影を見つけた。丁度下の受付に3つの影が並んでいる。
目を開けると、資料室の扉が開いて、ギルドの職員が入ってきた。
「シャインデザイアーが、帰ってきました。今、受付でクエスト完了報告をしているところです」と教えてくれたので本を閉じ、一人の冒険者にクエストを頼むよう依頼をすると閲覧室を後にするのだった。
一階のホールに降りると、3人にも報告が行っていたようで、笑顔で出迎えられてしまう。
「やあ!久しぶり。クエストうまくいった様だね。俺の方は、ちょっと趣味に走ってしまっていてね。会えなくて寂しかった?」柄でもないことを口走ってしまったな、何か体中がむず痒い。
「馬鹿言わないで!あんたは、臨時のパーティー要員だからね。お金に困っていたら、入れてあげる程度の付き合いだからね」となぜか頬を染めまくし立てるクロエである。
女とは分からない生き物だ。
久しぶりの3人にお風呂へ招待すると伝えると、風呂とはなんぞやとかえされた。
軽く風呂の説明をすると、腕を引っ張られるようにしてギルドを後にする。
仕事で疲れた体を癒やしてくれる風呂は格別だからな~
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