第31話 休日

 朝、鳥のさえずりを聞きながら目が覚めた。

 頭がずきずきと脈を打っている。

 お腹が張った感じできもちわるい。いわゆる二日酔いだ。

 初めての経験で、お酒を飲んで次の朝がこんな感じになるのなら、二度と飲みたくないと思うほどである。

 それでも一日は始まる。のそのそと寝床を這い出ると服を着替えて下に降りていった。

 「おはようございます。昨日は楽しいお酒でしたね?ご気分はどうですか」とジョゼが、心配げに聞いてくれる。

 「昨日の対価が、これじゃ割に合わないよ。最悪だ、悪いけど朝は軽くスープだけで良いよ」


 「お酒は駄目っておっしゃっていましたものね。つきあいも大変ですね。二日酔いの朝にハーブ入りの麦粥がよく利くようですよ?いかがなさいますか?」と尋ねてくれた。

 「ありがとう。それをお願いするよ」と席に座る。


 程なくして、コップが目の前におかれる。

 何だろうと視線を移すと女将さんが立っていた。

 「ジョゼから、二日酔いと伺いました。二日酔いによく利くハーブティーです。楽になると思い淹れさせていただきました」と静かに言ってくれた。

 「ありがとうございます。いただきます」

 湯気がほのかに香るコップを持ち、少しずつお茶を飲む。

 熱くもなくぬるくもないお茶を飲むとさわやかな香りが優しくお腹に染みてゆく。

 飲むほどに、むかむかした症状が軽くなり、飲み終える頃に麦粥が出た来た。

 軽く塩気が利いた粥にさわやかな香りが食欲を引き出してくれる。

 匙ですくい、口に運ぶとすんなりと胃に落ちてゆく。粥を食べ終わりお茶のおかわりをして、食事を終えた。


 クエストの報酬をもらえるのは明日になるし、一年は遊んで暮らすには充分なお金があるため今日はゆっくりと町中を見て回ることにした。


 宿屋暮らしの為、日用品は必要ないが一軒一軒見て回る。鍋やフライパン、カトラリーなど手にとっては感触を確かめたりしながらうろついていく。

 金物を見て別の店に移る。前は服を適当に買ったけど今日はじっくり見ていこうかな。

 この世界の服事情は、オーダーメイドが基本だから一から作るとなるとけっこうな額が飛んでゆくことになる。

 だから、一般家庭では古着を買って体に合わなくなれば売り、子供服はお下がりで辛抱しているようだ。

 俺もそれに習って古着を見ている。そんな中で、見慣れたスカートに似た物を見つけた。

 店員に聞くと「それは東方の国の服で男でも女でもはけるスカートで名前は確か・・・袴と言ったっけ」

 おお!まさか異世界で袴を目にするなんてとうれしさがにじみ出る。対になる上の方は無いかと尋ねたら対になるか分からないと言いつつも、ひもで結ぶ黒の道着を持ってきてくれた。

 嬉しくなって思わず買ってしまった。

 遠方から運んできたとあって、少々お高めになってしまったけど心やすまる品があっても良いじゃないかと思うことにした。

 店を出てだらだらと歩いていると喉が渇いてきたのでレオン水を売っている店で一杯のレオン水を貰った。丁度レモン果汁を少し甘くしたような飲み物で気分がすっきりする。


 次に訪れたのは、矢の補充と俺が作った弓が使い物になるかどうか確認して貰う為にコッコロさんの店を訪れた。

 店は相変わらず、薄暗く閑散としている。

 カウンターに近寄ると奥からコッコロさんが出て来た。

 「今日も矢の補充かい?」

 「ああ。それとこれが使い物になるかどうか見てほしくてね」といって自作の弓を袋から取り出しカウンターに置いた。

 コッコロさんは弓を持つと上から下まで確認してから

 「変わった形だな。貼り合わせが出来ていないから弓を引くとばらけそうだ。荒削りだがちゃんとした素材で作れば凄い弓になる。これを何処で手に入れた」興味深そうに聞いてくる。

 「僕が、最初に間に合わせで作った物です。ちゃんと乾燥させて無いからまともじゃないのは分かっているんですけどね。前に買った白いのはちょっと目立つので重要な場面以外では使いづらいんです」と正直に話す。

 「ランクが低かったら、ねたみの対象になるか。まあいい、この素材では使えんよ、よく乾いたやつで同じように作ってやる。こっちも良い勉強になる」

 「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 「ただし、ちゃんとやるからには一月は貰わんといかんからな、それだけは譲れん」

 コッコロさんの作業に文句はない素直にお願いしておく。

 ついでになったが、矢も30本補充する。俺の癖を分かってくれているようで狂いのない矢がそろっていた。


 一通りの話をして店を後にしたら昼を少し過ぎていた。

 うろついている間に二日酔いは、収まりお腹が空いたので、遅めの食事のため中央広場に移動する。

 肉を串に刺し焼いている屋台で一串買い、別の屋台で値段が3倍もする白いパンも買ってから広場の端に移動した。

 白いパンを2つに切り、肉を挟んでサンドイッチのようにして口に運んだ。

 肉汁が柔らかいパンに染みこみ味が豊かになる。肉は塩味だけだが肉本来の甘みが良く味わえる。瞬く間に2個を平らげてしまった。

 食後も街を彷徨く。今度は武器屋を覗いてゆく、豪華な武器が並んでいるがどれも驚く値段が付けられていた。説明によれば強い魔物を討伐するにはそれなりの武器に必要な素材は入手が困難な物が多いとか。

 俺の格好からして、駆け出し満載で金がなさそうな冒険者にはまともに相手をしてくれなかったが、こちらも変な物を売りつけられずにすんで良かった。

 あっという間に夕方になりマグノリアの街を色々知ることが出来て満足である。

 こうして俺の休日が終わった。

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