第54話 もう一振りのナイフ

 教会を出ると、その足でギルドに向う。

 教会で確認が取れたら報告するようエミリーさんに言われていたこともあるが、結構クエストをサボっていたこともあるからな。


 ギルドの扉を開けて、受付に急ぐ。昼近くと言うことも有りギルド内は、冒険者の姿は、まばらだった。

 残っているのは、良いクエストを取り損ねてあぶれた者が、酒を飲んでいるか遠征でもやるのか何組かのパーティーが頭をつきあわせて会議をしているぐらいだ。


 すべてを公表する必要は、ないていってたな!これをそのまま見せたら後々嫌な事に巻き込まれそうだ。

 起票台で、木の板に書かれている中から、見られたくない箇所を抜いて書き写すと、窓口にエミリーさんを見つけ前に立つ。

 「お久しぶりです」と声を掛けると、何か書き物をしていたらしくペンを走らせる手を止めて顔を上げた。

 「ほんと、久しぶりですね!今まで何をしてたんですか?」何か嫌みに聞こえるのは俺の気のせいだろうか。

 「宿の裏で日曜大工をしていたんですよ。やっと終わったので教会に行って、その帰りに報告をしによりました」苦笑いしながら答える。

 「日曜大工?・・・ですか。それで教会での結果報告はどうなりましたか?」

 日曜大工は、この世界では通じないのかスルーされたか、まあいいや説明もめんどくさいし、さっさと報告しておこう。

 

 「教会で教えてもらったものを、記入してきました」手に持ていた紙をエミリーさんに渡す。

 受け取った紙に目を通して「職業は武術士と魔法師、魔法が火属性でランク5に魔力量は6ですかスキルはこれでまちがいありませんか?」

 「ええ、そうですけど何か問題でも?」

 少し考えてから「魔力量は問題無いですが、魔法が中級の真ん中とは、微妙です。ソロだとちょっと厳しいかもですが、アクティブスキルに剣術があるから、今は魔法剣士と言ったところですかね?登録の時にも思ったんですが、職業にある武術士とはどんな職ですか?初めて見る職業なので教えて貰えませんか?」


 「剣、槍、弓など武具や馬術や体術などで攻撃や防衛をある程度できるようになった者が名乗れる職業と言った物のようです。俺は身長を超したり体重より重い武器だったりは、扱ったことはありませんけどね」


 「へえ、そんな凄い職業なんですね。ようやく貴方が冒険者ランクに見合わない力量を持っていることが理解できたように思います。ようやく安心してクエストに送り出せます」

 安堵の表情をしてホッとため息をついている。

 よほど登録時の俺は頼りなく思えたんだろうな。今は飛び級でDランクまで上れたが、伊達では無いと証明できたわけだ。


 「ところで、こんな時間ですが今日はどうしますか?クエスト受けます?」


 「ええ、実は結構迷ってましてね。日をまたいでのクエストは嫌ですし、エミリーさんが以前言った森への採取クエストはランクが上がったせいか、行く気が無くなりましたしね。今日はおとなしく帰ります。そうだ、シャインデザイアーの3人はどうしてます?」


 「シンノスケさんがここ最近顔を出さないってぼやいてましたよ。一昨日から討伐クエストに出ています。明日あたり、帰ってくると思いますけど、ちゃんと誤った方が良いですよ」


 宿の場所知ってるんだからぼやくのなら、のぞきに来ても良いんじゃ無いか?と思いながらも礼を言って受付を離れた。

 さて、本当に困ったな、時間を潰す何か無いかな?昼間から酒を飲むほど好きじゃないし、買い物と言っても宿屋暮らしだから必要な物も無いし、金が無くて生活が苦しくも無いし本当に何しよう?

 考えながら歩いたせいか気が付くと、道具屋街を歩いていた。

 道具屋街と言うことで、コッコロさんの顔が浮かんだので、少し遊びに行こうとコッコロさんの店に進路を変更した。


 扉を潜ると相変わらず薄暗い店内だ。

 扉の開閉音も聞こえてるだろうに相変わらず、あの人は呼ばないと出て来ないか。必要になったら、呼びかけて話をしようと棚に並んでいる品々を見て歩く。

 短剣類が、並んでいる棚の前で、ふと思いついたことがあった。

 いつも、背中に背負っている袋を下ろす。

 魔法の袋は外見と中の状態が違うため、ぺたんこのリュックのようなそれの口を広げ、手を突っ込んだ。

 欲しいものを思い浮かべると手に、柄の感触があたる。

 柄を握り取り出し受付に向う。手にはククリナイフが握られている。


 「おーい親父さん。出て来てくれよ」と呼ぶと奥からのそりとコッコロさんが顔を覗かせた。


 「何じゃ、小僧か。今日はどうした」

 ちょくちょく顔を出すせいで、俺の扱いがぞんざいになったかな?

 

 「こいつと似たようなのを作ってほしくなったので・・・作れます?」


 街一番と言われる鍛冶職人に向けて言う言葉じゃないけどと、思いながらも神様から貰ったククリナイフを手渡した。

 コッコロさんは、何も言わなかったが失礼な事を言うやつだと眉間にしわを寄せていたが、ナイフを受け取りクルクルと回しながら観察を始めた。

 次第に、眉間のしわが増えてくる。

 「小僧、何処で手に入れた?」低い声で問われると怖い。


 本当のことも言えないため「覚えてません。俺の物には違いありませんが、いつ手に入れたか記憶にないんです」とはぐらかすしかない。

 「素材が足りないから同じのは作れない。素材を持ち込めるならほぼ近い物は打ってやれる。オリハルコンとミスリルの合金でなら、それっぽいのはできるがどうする?」

 素材採取なんて面倒なのできるか!即刻合金製で頼む。

 「料金は1,500万、制作に二ヶ月は時間をくれ!あと、型取りして良いか?」と聞いてきたので了承した。


 コッコロさんは、久しぶりの大仕事と張り切っていた。

 俺も、今日はククリナイフのことを考えるだけで一日が過ごせそうだと店を後にした。

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