第22話 クエスト完了

 エリザベートの長い説明の後、一緒に食事をどうかと尋ねられたけれど、仕事としてきているため丁重にお断りさせていただいた。

 また会いましょうとエリザベートが言ってくれたけど、マグノリアを拠点として活動するつもりだし、王都のこんな大店の令嬢とそうそう会うことも無いだろう。

 クエスト完了の書類に、サインを貰って店を出る。書類には、仕事内容の満足度、対応した事柄について簡単な報告が記載されている。

 これをギルドに持って行けば報酬が得られる。

 ギルドは離れていたので、1000Luを払って乗合馬車に乗って移動することにした。


 王都の冒険者ギルドは大通りに面していて、建物の前には刈り揃えられた芝生広場がありアーチ状の階段の上に2枚扉が二つもある大きな建物でクエストを終えたであろう多くの冒険者で賑わっていた。

 中の作りは基本同じであったので、馬鹿でもわかる。受付カウンターに並ぶ冒険者の後ろに並んだ。

 列は順調に進み俺の番になった。受付のお姉さんは事務的に書類の受け渡しをしていて愛想ないが、それでも美しい。愛想がない分、こちらも冷静に対応が出来るというものだ。

 冒険者証と書類を受け取ると、内容を確認していく、途中目を大きく開き書類と俺の顔を2往復した。

 すぐに取り繕うと、「Fランク冒険者シンノスケさんで、クエスト内容は護衛任務で無事完了で満足度はA、対応として盗賊スリーヘッドドラゴン旅団頭目デーモン一派を殲滅で間違い無いですね。」

 「すみません。その表現だと俺が頭目のデーモンを倒したように聞こえるんですが?」

 「問題ありません。パーティーを組まれていたのでしょう?誰が倒したでは無く、事実を言っています」とすげなく返される。

 「では間違い有りません」

 「成功報酬として、護衛で50万、討伐で500万併せて、550万Luになります。受け取りはどのようにされますか?」

 「では、100万を受け取りで、残りは預けます」というと、トレイに大銀貨が10枚乗せられて出て来た。


 受付の女性の顔が、緩むと「パーティーを組んでいたとはいえD級以上の討伐対象を殲滅するとは驚きです。無茶はしないでくださいね!我々は冒険者が無事に帰ってきてくれる事が一番嬉しいのですから」といわれた。

 不意打ちとはずるい!さっきまでの事務的な感じとは打って変わって友人を気遣う微笑みに顔が熱くなり、頭の中が白くなって声が出ない。コクコクと頷くしか出来なくなった。

 大銅貨を受け取るとそそくさとその場を離れ、バーカウンターに座る。

 野菜ジュースをオーダーする値段は300Luなので銅貨3枚を渡した。

 カウンターでジュースをちびちびやっていると、隣に赤髪の男が座るとにやにやした顔を向けてきた。

 「Fランクの冒険者かい?ずいぶんと稼いだようだね。どうだい俺と組まないか?俺にも恩恵を恵んじゃくれないか?」とずいぶん自己中すぎる発言だったので「すみません、ソロでやってますのでそういうのはお断りします。それにホームはここじゃ無いですし!」

 「そうつれないこといわないでさ~。あ!俺、冒険者のランクはDでアルって言うんだよろしくな」

 「俺、人の名前覚えるの悪いので覚えているか解りませんよ」


 「人が名乗ったんだからさ~。名乗るのが筋じゃ無いのかい?」

 「あなたが勝手に名乗ったんじゃ有りませんか。でも、そう言われると仕方がありませんね。シンノスケです」ああああ、変なところで、癖で名乗ってしまった。

 名乗るんじゃ無かったと、頭を抱えていると「あんまりしつこいと嫌われちゃうからこの辺で。名前を聞けただけでもよしとするよ。また会ったら声を掛けるよ。一緒にクエストをしよう」と手をひらひらと振りながら別のグループが座るテーブルへと移動していった。


 これ以上、変なのに絡まれたくないと残りのジュースを一気に飲み干して、ギルドを後にした。


 王都の夜は、赤々と明かりが灯り行き交う人々の数は多い。客引きの綺麗なお姉さんがそこかしこで色気を振りまきお客になりそうな男達としゃべっている。

 彼女たちとつきあうのは、大人になって夜が寂しいと思うようになってからだな。

 この世界ではもう成人となっているが、元の世界の教育を受けた身では、いまいちピンとこない、とてもじゃないが無理です。いろんな意味で!

 声を掛けられないようにとなるべく視線が会わないように気をつけながら、通りを進んでその場を去った。

 

 やはりこの時間では宿は何処も一杯で、5件目にしてようやく泊れる宿屋兼酒場の戸を潜る事が出来たが、食事を含めて12,000Luと高かった。さすが王都、物価が高い。

 明日にはマグノリアに向けて帰ろう。ランクから護衛の仕事は受けられないだろうから、薬草を摘みながら帰るとするか。

 宿屋の飯はそれなりに美味しかったが、多くの客はジョッキを打ち鳴らしわいわいと楽しそうに酒を飲んでいる。別にうらやましくは無い、騒がしいのは苦手だ。

 早く部屋に戻って静かに読書をしよう。どんな本を読もうかな。

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