第48話 Dのクエスト6

 追随してくる炎からは、幾分か離れていてもその威力はかなりのモノで、ジリジリと肌を焼くような感覚が伝わってくる。

 タートルは体に多くの攻撃を受けているためか、その動きははじめの頃よりもずいぶんと遅く、炎を回避できている理由でもありソフィアやジェシカには感謝しか無い。

 勿論、クロエの活躍でタートルのヘイトをあげてもらったおかげで、タートルの動きは単調になって、その貢献は大きい。

 タートルが炎を吐く光景は、昔爺ちゃんと一緒に見たDVDに出てくる怪獣を思い出されて、戦闘中にもかかわらず笑みがこぼれた。

 突然、炎を吐くのをやめた、よく見るとタートルの牙が赤くなっている。

 魔法を、使えなかったやつが魔法を使ったのだから、自分にもダメージが来たのかもしれない時間にして20秒ほどだろうか。

 回避行動を取ったために、霧散した魔力を再度練り直す隙ができた為、魔力を練る。

 3人の攻撃は続いている為に、タートルの意識はそちらに移っている。

 いつ火炎放射を撃たれるか分からないために、早く決着を付け無ければ近接戦を続けているクロエが危ない。

 魔力が練り上がり、発動できるまでになったのでタートルの斜め前に移動すると「鈍亀こっちだ」と大声で叫んだ。

 その声を聞いて、クロエがロックタートルから離れると同じく、タートルが此方を向く。

 タートルが、俺の魔力に気がつき咆哮をあげると、ようやく牙の赤みが収まったというのに火炎を吐くべく口を大きく開ける。

 口からはチロチロと炎が見え始めるが、此方の方が一足早い「ファイアーブロック」と唱えると炎の塊がタートルの口の中に命中し発動間際の魔法を打ち消しタートルの体の中で爆ぜた。

 口を開けていたので爆風が飛び出して来た為に、もろに爆風を受け地面を転がる羽目になった。

 火傷しそうな程の熱風と地面を転がされる痛みに耐えて起き上がると、ラッキーにもロックタートルの頭が、崩れていてとどめを刺して貰う手間がはぶけた。

 視界の端で嫌な物が映るのが分かり、視線を向けると今まで盛大な戦闘を繰り広げていたにもかかわらず、穴に体を半分埋めて動かなかったロックタートルが立ち上がっていた。 

 体の中に、頭と足を引っ込めるとクロエを標的にして地面を転がり始めた。

 「クロエ、危ない後ろ」と叫ぶ、クロエが後ろを向くと凄い勢いで回転して突撃してくるタートルに気が付いて、跳躍して回避行動に出る。

 しかし、離脱できたと思った瞬間、ロックタートルの軌道がわずかに変わりクロエが弾かれた。

 威力はすさまじくクロエが壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちて動かなくなる。

 クロエを跳ねたロックタートルはなおも、回転を続けソフィアとジェシカに襲いかかる。

 ソフィアとジェシカが別れて躱すとロックタートルは壁に激突し岩にめり込み威力がすさまじいことを物語っている。

 真っ白であった俺の意識が再起動し訳の分からない感情が、この女の子達を失いたくないと俺に告げる。

 この感情が、怒りに変わり魔力がすぐに魔法変わっていくのを感じた。

 ロックタートルは、そのままの姿で岩から離れて再び回転して俺に向ってきた。

 引きつけてやつが、回避できないであろう距離を計り、ファイアーブロックを放つ。

 ファイアーブロックは、ロックタートルの回転に沿って地面の方にそれるが、タートルと地面の間で爆ぜるとロックタートルを持ち上げた。

 ロックタートルは、放物線を描き地面と壁に突き刺さり今度はそこから離脱できないでいた。

 手足を出す前に、怒りにまかせるまま“ファイアーブロック”を打ち出し続ける。

 体の中に打ち込むのとは違って一発の効果はそれほどだが、ロックタートルの体は炎に焼かれていく。

 ロックタートルは、手足を出して壁から抜け出すことに成功するが、回避も攻撃もできずにもがき苦しんでいる。

 魔法の打ち過ぎで、体が鉛のように重く頭が締め付けられる様な頭痛が起こり、立っていられずに両膝を地面に付く。

 ロックタートルは、炎に全身を包まれたまま体を真っ赤にしてピクリとも動かなくなっていた。

 肩で息をしていると、ソフィアとジェシカが駈け寄ってきてくれて魔力回復ポーションを渡してくれた。

 ポーションを飲むと良薬口に苦しとはよく言ったもので、口いっぱいに苦みが広がり後を引きまくる。

 そう何度も、ほいほいと飲める物では無い、自分の限界を見極めないといけないな。

 二人に手を貸して貰って、クロエの元に行くと傷だらけになりながらも息はしていたが、依然意識は無いようだ。

 ジェシカが、ポーションをクロエの口に流そうとするが口から流れてしまった。

 仕方なくジェシカは、口にポーションを含むと口移しでポーションを飲ませる。

 一見女の子同士のキスにも見えなくもないが、これは救命処置だ、変な想像より心配が上回っていて早く目覚めてほしいと思う。

 クロエの喉が、上下するのが見えたので無事に飲んでくれたようで一安心する。

 クロエが、ゴホゴホと咳をして目を覚まして「苦い」と愚痴をこぼしている。

 半覚醒なのか目はうつろであったが、徐々に意識が戻ってきたようで「ロックタートルはどうなったの?」と返す。

 「殲滅終了よ!それより、貴方の傷の処置が先よ。ポーション飲んで」とまだ3分の2程残っているポーションの瓶をジェシカがクロエに手渡そうとしたが、クロエが「体中が、痛い。たぶんあちこち折れてるかも飲ませて」と言った。

 ジェシカが、頷いて瓶を口に運びゆっくりと飲ませる。

 「体が動くならポーションなんて一気に飲み干すんだけど、飲ませて貰ってなんだけど、体の痛みより苦痛に感じるわね」と渋顔でぼやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る