第5話 マグノリアの夜

 街の中は、すでにできあがった状態の男達等で、賑やかで活気に満ちあふれていた。そんな中に宿を探すために、歩を進める。通りの軒先には看板を下げているところが見られる。看板には文字と絵が描かれており文字が読めない者でもわかるように工夫がされている。

 今の自分の姿は、この町の冒険者や騎士風の人々と全く違うマットブラックの忍者刀にナイフを装備していて、注目を浴びそうであった。

 あまり目立ちたくないので、忍者刀をしまうべく暗闇に移動し、袋に忍者刀をしまい通りに戻った。

 飲み屋のほとんどが宿屋を兼ねているようなので、近くの飲み屋兼宿屋に入ってみたが食堂には座る場所がないほどに混んでいた。


 「宿泊を頼みたいですが、部屋はありますか」と近くの店員に尋ねた。

 店員は、食堂の接客に忙しいのか、こちらを見ずに「宿の受付はもう終わった、部屋は一杯だ」と素っ気なく行ってしまった。


 あきらめて宿を出る。仕方がないので目をつぶり検索を行うと通りをしばらく行ったところにある店が、空いているようなので行ってみることにする。


 店は、小さな落ち着いた雰囲気のちょっとおしゃれな店であった。この店も、食事や酒を楽しむ客で混んでいるようであったが、検索結果を信じて入ってみるとカウンターに同い年ぐらいの少女がお金を数えていた。


 「宿泊を頼みたいのでですが、部屋はありますか?」と尋ねると、少女はお金を数えるのをやめ顔を上げにっこりと微笑み「お一人様ですか?でしたら部屋をご用意出来ます。ただ、これからの宿泊では十分なおもてなしが出来ませんが、よろしいですか?」と返してくれた。

 よかったこれで寝床を確保出来る。

「構いません、ベットで寝られるなら充分です」

 「一泊、大銅貨3枚です。食事は別料金で夜朝込みで4枚です。前払いですがよろしいですか?」


 「分かりました」と袋から銀貨1枚を取り出して大銅貨3枚を受け取った。

 「部屋は2階の一番奥の206号室になります。カギを無くさないようにお願いしますね。」と木札に206と書かれたカギを手渡してくれた。


 2階に上がり廊下の突き当たりの206と書かれたドアのカギを使って開け中に入った。中はベッドがひとつと小さな机といすが置かれた部屋で狭いながらも良い雰囲気が漂っていた。

 財布の中身は大銅貨3枚と銅貨7枚と少しさみしくなったが袋の中には大金が隠れている。夕食代を払っているしお腹も減っているので袋を置いて部屋を出た。


 食堂に入って空いている席に座ると、さっきの少女が注文を取りに来て「定食の他に、ご注文はございますか?」と満面の営業スマイルできいてくるので「おすすめの飲み物は何ですか?」

 「ミード酒、エール、火酒と御座いますが中でもミード酒は自家製で、自慢の一品です」

「お酒はちょっと苦手でして」


「なら、ミード酒を薄めたミード水がよろしいかと」

「では、それでお願いします。」とやり取りのあと少女はスーと厨房の中に消えて行った。


 運ばれてきた料理は、野鳥の香草焼きとジャガイモに似た芋を蒸かした物と燻製肉のスープそして黒パンとミード水がトレーに並べられて出て来た。

 香草の良い香りが鼻腔をくすぐりお腹がキュルルと可愛い音を鳴らす。


 早速肉にかぶりつく、香草の香りが口の中に広がり鼻に抜ける。続いて肉汁が何処に隠れていたかと言うほど溢れる。

 肉汁を飲み、肉を咀嚼していく皮がパリパリと口の中で割れ軟らかい肉とのハーモニーが楽しい。

 次にエール水を飲む、ほのかに蜂蜜の香りがして口の中がサッパリした。

 また肉がほしくなる、そうして食事を進めていく。


 食事で一番苦労したのはパンである。白くフワフワしたパンしか食べてこなかった身としては、歯が立たないパンなど食べられない、仕方なくスープーに浸して食べ進めばやがてお腹がいっぱいになった。


 「お客さん、おかわりはどうですか?」と給仕に回っていた少女が声をかけてくるが「ありがとう。でももうお腹一杯よばれたよ。美味しかった、ごちそうさま」


 「お客さんは、小食ですね。でも喜んでいただけたなら嬉しいです。お粗末様でした」と微笑んでくれたところで席を立ち部屋に戻った。


 ベッドに腰を下ろし袋から学生鞄をだしてその中から、魔法についての本を出してパラパラと読んでいく、すると部屋をノックする音に続いて「お客様、まだお休みになっていなければ体を拭くお湯をお持ちしましたのでサッパリとされてはいかがでしょうか?」と少女の声が掛かる。


 ありがとうと湯を受け取った。部屋を閉めるときに少女がベッドに置かれた魔法の本に少し驚いているように見えたが何も言わず部屋を出て行く。

 この世界は本が珍しいのか?識字率が低いのか?よく分からん。でも、詮索しないのは良く教育されているな良いことだ。


 内容の分からない本よりも、サッパリとして気持ちよく寝ることを選択した僕は服を脱いで絞ったタオルで体を拭いてゆく。

 さらりとした肌に触れる空気の冷たさにほっとため息が出た。

 ベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきて夢を見ることもなく闇に沈んでゆくのだった。

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