反撃
【コージマ視点】
「お、お姉ちゃん、あれっ! あれ見てよぉっ!」
妹のハイジが空の一点を指し示して言った。
つい今しがたにもガラス窓を粉砕して飛び出していった馬鹿共がいる。その馬鹿共が開けた大穴から覗くのは、空に浮かんだ巨大な二つの隕石。このまま地球にぶつかれば、数十億年は生物の進化が巻き戻されるほどの代物。
それが、どうしたことか。
私とハイジが見つめる先で、粉砕した。
「……すごい、すごいよぉ」
「なっ……」
まるで内部に火薬でも仕込んで爆発させたようだった。
歪な球形を取っていたそれが、目の前で木っ端微塵に崩壊した。それなりに距離があるにも関わらず、崩壊の光景は地上まで届けられた。まるで作り物の映像でも眺めているかのようである。
「ほんとうに、こ、壊しちゃったよぉ、あの二人……」
「しかも破片がっ……」
私たちの見つめる先では、砕かれた隕石の破片が地球の引力に反発するかのように、段々と遠ざかってゆく。なにをどうしたら、幾万、幾億と散った岩石の欠片を、空気も何もない空間で飛ばせるのか。
まるで理解ができなかった。
ただ事実として、その光景は空の一端で繰り広げられていた。恐らくこのミラクルを目の当たりとしているのは、私たちに限らないだろう。いよいよ迎えた最後の瞬間、まさかのどんでん返しである。
「凄い……」
「え、ええ、本当に砕いて、しまったわね……」
全身が震えるのを感じた。
こんなことが可能なのかと、芯の滾る感覚を覚えた。
知識としては知っていた原初の鬼。
鬼という名前の鬼。
私やハイジのような吸血鬼は、その亜種に過ぎない。
鬼が鬼と呼ばれるに至った理由を空に見つけて、私は見惚れていた。
「もしかして、私たち、助かったのかな……」
「ええ、もしかしなくても、助かったような気がするわ」
相当の力が加えられたのだろう。砕かれた破片は見る見るうちに、空に溶けて見えなくなった。かなりの速度で地球から遠ざかっているようだ。あれだけ巨大であった隕石の、けれど、僅か一欠片すら早々に見えなくなった。
これを私とハイジとは、呆然と眺めるばかりだった。
「お姉ちゃん、千年ちゃんっていったい……」
ボソリ、ハイジが呟いた。
これに私は推測で答える。
「たぶん、私や貴方の大先輩じゃないかしら」
「大先輩?」
キョトンと首を傾げてみせる我が妹。
ただ、その疑問に答える気にはなれなくて、私は延々と空を眺めていた。
◇ ◆ ◇
【ハイジ視点】
私とお姉ちゃんが見上げた空の一角で、二つの隕石が砕けた。
「お、お姉ちゃん、あれっ!」
反射的に叫んでしまった。
お姉ちゃんも私と同じく、その光景を目の当たりとして驚いている。
あんぐりと口を開いた面持ちが、ちょっとアホっぽくて可愛い。
「……すごい、すごいよぉ」
「なっ……」
「ほんとうに、こ、壊しちゃったよぉ、あの二人……」
つい数分前のやり取りが思い起こされた。
まるで近所のコンビニエンスストアにでも出かけるような気軽さで、この部屋から窓ガラスを砕いて出ていった二人だ。それがまさか小一時間ほどの間で、本当に隕石を砕いてみせるとは思わなかった。
正直、彼らは恐怖から頭がおかしくなったのだと思っていた。ジッとしていられなくなって、無駄に足掻いているのだと。現実から逃げ出して、私たちの前からも逃げ出してしまったのだと。
「しかも破片がっ……」
砕かれた隕石の破片が、これまでとは逆の軌跡を描き遠退いてゆく。それも凄い勢いだ。これまでの隕石の落ちてくるスピードが一だとしたら、破片が遠退いていく勢いは、十とか、二十とか、それくらい。
そりゃ大きさの違いとか、目で見て観測している為だとか、色々と理由はあるかも知れない。けれど、そういった色々を抜きにしても、とんでもない勢いだと思う。まるで流れ星のシャワーのようだもの。
だからこそ、まるで理解ができなかった。
ただ、事実として隕石は砕かれて、その破片はどこへとも飛んでいく。
「お姉ちゃん、千年ちゃんっていったい……」
「たぶん、私や貴方の大先輩じゃないかしら」
「大先輩?」
お姉ちゃんの言わんとすることがよく分からない。
ただ、千年ちゃんが凄いということだけは、理解できた気がする。
---あとがき---
5月29日、「田中 ~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い~」の11巻が発売となりました。本巻より書籍版のみの独自展開となります。約23万文字あるテキストの9割以上が書き下ろしとなり、大変お買い得な最新章です。どうか何卒、よろしくお願い致します。
公式サイト:https://gcnovels.jp/tanaka/
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