飲み会 八
ある程度お酒が入ってくると、そこから先、秩序は容易に失われる。
本日、最初に出来上がってしまったのは妹さんである。千年から、私の注いだお酒が呑めないのかムーブを受けて、早い内からパカスカとグラスを空ける羽目になったのが原因である。それも度数の高いお酒ばかりであった。
「だーかーらー、私はお肉が食べたいのぉ! ステーキがいいなぁ!」
「も、申し訳ありません。ステーキはご用意に少々お時間がっ……」
「えー? 今すぐに食べたいんだよー? 美味しいおにくー!」
「今すぐにというのは、そ、その、肉の在庫の問題もありまして」
おかげでバーテンダーさんが大変なことになっている。
めっちゃ困り顔。
妹さん絡み酒である。
どうせ絡むなら、こちらの陰キャに絡んでもらえないものか。
「私の言うことが聞けないのぉ? チューチューしちゃうぞぉ?」
「ジャ、ジャーキーでしたらすぐにお出しできるのですがっ……」
「あんなペラッペラのお肉じゃあ、私、満足できないなぁー!」
できる男として、ここは一つバーテンダーさん救出大作戦。
からの、恩を売って明日あたりに一発ヤラせてもらうの巻。こちらの童貞はロリもいけるが、巨乳も大好物である。オッパイとお尻の大きなブロンド美女のバーテンさんに、情熱的に求められたりしたら、もう最高でしょう。
「コジマちゃん、やめなよ。バーテンさん困ってるじゃないの」
「えー? 君、そういうこと言うのぉ?」
「いやいや、困っている人を助けるのは当然の行いでしょう」
「この子に恩を売って、一発ヤラせてもらおうとか考えてない?」
「そそ、そ、そんな滅相もありませんっ!」
くそう、バレバレか。
お酒が入っているから、こちらも態度がスーパー素直だぜ。
やたらとキョドってしまったな。
こうなったらターゲットを妹さんに変更だ。
対面に座った彼女に向けて、大きく股を開いてのアクション。
「そこまでお肉をご所望なら、こちらに立派なソーセージが」
「ふぅん? 君、吸血鬼にそういうこと言っちゃうんだー?」
「本日のおすすめ商品でございます! ご賞味下さい!」
だいぶ酔っているからな。この程度のセクハラ、簡単に実行できてしまう。今ならオッパイを揉むくらい、頑張れてしまうんじゃなかろうか。そうだよな、どうせあと数日の命なんだし、揉んでおかないと損な気がする。
すると先方に反応があった。
バーテンさんに絡んでいたのも束の間、腰がソファーから浮く。
正面のローテーブルを迂回して、妹さんがこちらにやって来た。
「悪い子はちゅーちゅーしちゃうぞぉ?」
「え、うそ、マジで!?」
念願のちゅーちゅータイム、発動の予感。
こちらの正面までやってきた彼女は、股ぐらの間にしゃがみ込んだ。依然として開けっ広げであった両足の間である。完全におしゃぶりのポジション。やだ、そんな、上目遣いの妹さん、とっても可愛い。
「自慢のソーセージはどこかなぁー?」
「ひっ……」
そうかと思えば、ズボンの上から股間をむんずと掴まれた。
躊躇のない動作に声が漏れる。
直後にジッパーが降ろされて、中身を直に掴まれた。グイッと一息に引っ張り上げられたそれは、社会の窓からこんにちは。本来ならすぐにでもマックスハートするべきところ、アルコールの影響で元気がない。
快感よりも痛みが先行する緊迫感。
「え、うそぉ!? 意外と大きいのちょっとびっくりぃ」
「いえいえ、まだ進化前ですから! あと二回、進化できるんでっ!」
「ソーセージっていうより、フランクフルトって感じ?」
「っ……」
妹さんが吐息がフランクフルトを刺激する。
目と鼻の先に息子を眺める彼女の表情が、エロい。なんてエロいんだ、妹さん。ニヤニヤとした人の悪そうな笑みが最高じゃないですか。そんな目で上目遣いに見つめられたら、フランクフルト、進化しちゃう。
あぁ、どうしよう、アメリカンドッグにエボリューション。
「あははは! こんなことされても勃起しちゃうなんて、本当に駄目だねぇ」
「だ、だって妹さんラブだからっ! 愛してるから! 何されても平気なの!」
ちなみにエリーザベト姉はトイレに立って今は席にいない。
ぜひ彼女の目にもご覧に入れたい光景である。
そして、明日にも二日酔いの只中でセクハラの題材としたい。
「へぇ? じゃー、こーいうのはどーかな?」
「えっ……?」
この世の悦楽を味わっていると、妹さんに動きがあった。
何を考えたのか、目の前のソーセージをぱっくんちょ。
息子がとても暖かな感触に包まれる。
生まれてはじめて経験する快感に、背筋がゾクリ。
「え、ちょっ……」
「ほーへーじ、いははひまーふっ!」
しかし、そうして与えられた快楽は、ほんの一瞬であった。
直後にブチンという衝撃、股間を激痛が襲った。
「ぅぁああああああああああああ!」
ソーセージが、ソーセージが噛みつかれているぞ。
吹き出した血液が、彼女の顔を真っ赤に染める。
その只中でニヤニヤと、妹さんは楽しそうな笑みを浮かべている。本来なら嬉しいはずの交流は、彼女の口元が閉ざされた途端に地獄絵図さながら。あまりにも痛い。いいや、痛いなんてもんじゃない。
ヤバい、コレ、ヤバい。
ヤバい、ヤバイよ。
痛すぎて叫び声が、声が止められない。
「んぁあ゛ぁああああああああああっ!」
「んふふっ!」
こちらの股ぐらで、妹さんが大きく後ろに向かい頭を振るう。
まるで野生の肉食獣が、獲物の臓物を引き千切るかのような動き。
これに応じて、ブチンという音を立てて、ソーセージが取れた。
「んひぃぃいいいいいい!?」
痛い痛い、痛くて、ただひたすらに痛い。
以前、エリーザベト姉に日本刀で腹を突かれたときより、青梅で雪女に凍らされたときより、今この瞬間のほうが遙かに痛い。こんな痛いことがこの世界にあったなんて思わなかった。どうしよう、どうしよう、痛い。
「オチンチン壊れちゃうよ゛ぉおおおおおっ!」
「あははははは、壊れるもなにも、取れちゃったよぉ?」
口内から取り出したソーセージを手の平に載せた妹さん。
それをこちらに見せつけるようにして語る。
「おれの、お、オチンチン……」
一瞬、痛みすら消え失せる絶望感。
どうしよう。
どうしようオチンチン。
「た、助けてよっ! 俺のオチンチンたすけてよぉおおっ!」
妹さんに縋り付く。
ガチ泣き。
涙目。
「えー? でもこれ、もうくっつかないよ? 取れちゃったし!」
こんなの挫ける。心身ともに挫けてしまうよ。
いっそ死んでしまいたい。
人生を諦める三秒前。
意志が崩れる寸前。
そうした真際のこと、不意に訪れる衝撃があった。
「おーい、うるさいぞぉー」
それは千年の何気ない呟きと共に与えられた。
同じソファー、すぐ隣で飲んでいた彼女がこちらを向き直り、妹さんに向けて腕をふるった。まるで顔の周りを飛び回る羽虫を追い払うかのような、素っ気ない動きだ。しかし、その僅かな挙動から状況は一変。
次の瞬間、妹さんの腕が切断された。
ソーセージを手の平に乗せていた方の腕だ。
「……え?」
切り飛ばされた肘から先が、手に載せたソーセージと共に床に落ちる。
吹き出した大量の血液が、テーブル席を赤一色に染め上げた。
妹さんは一瞬、キョトンとした表情でこれを見つめる。え、なにそれ、みたいな感じ。数瞬の後、その可愛らしいお口から、耳を劈くような悲鳴が上がった。それはもう先程の自分と大差ないほどの声量である。
「っぁあああああああああああん゛!」
短くなった腕を抱いて背中を丸める妹さん。
ポジション的には、依然としてこちらの股ぐらにしゃがみ込んだままだ。すぐ近くで目の当たりにする美少女の絶叫シーンに、ちょっと胸がドキドキ。自分、てっきりマゾだとばかり思っていたけど、サドも割といけそうだ。
「おちんちん、痛くなくなったか?」
「え? ……あっ」
千年に言われて気付いた。
おちんちんが痛くない。
咄嗟に視線を股間へ戻すと、そこにはソーセージ。
「おぉ、な、治ってるじゃないですか」
「よかったな、おちんちん」
「よかった! よかったよ、おちんちん!」
千年に魂を食べられたことで得た不老不死の力。これが遺憾なく発揮された結果だろう。しかも以前より、幾分か治りが早くなっているような気がする。吸血鬼の蘇生さながらではなかろうか。
完全に復帰したソーセージの正面、妹さんの片腕でも、同じように自然治癒が始まり始めている。その愛らしい瞳が見つめる先では、既に指先まで骨が伸びており、これに肉が生えては厚みを増してゆく。
「ぐっ、うぅっ……」
苦痛い悶える妹さんも激しくラブリーだ。結婚したい。
ややあって、彼女もまた元あった肉体を取り戻した。
「ありがとうよ、千年! オマエはオチンチンの恩人だ!」
「そかー? それはよかったな!」
千年、なんて愛おしいんだ。愛してるぞ。
堪らず彼女に抱きついてしまう。
ソファーに腰掛けた姿勢のまま、腰をぐいっと横に曲げてハグ。両手で抱きつくと共に、自らの顔を彼女の胸に埋める。あぁ、平坦ながらも、なんて包容力のあるパイパイなんだろうか。癒やされる、これは癒やされるぞ。
子供っぽい暖かな体温が最高である。
「千年っ! 愛してるぞ!」
「おほー、私もオマエのこと好きだぞ。チューしていいぞ?」
「マジか! こうなったら結婚しよう!」
「おー! 結婚だー! 結婚だー!」
「やったぞ! お嫁さんを手に入れてしまった!」
千年、柔らかくて暖かくて気持ちいい。
ずっと抱きしめてたい。
胸に顔を埋めて、スリスリ。
やーらかくてあったかいなー。
すごくきもちいい。
きもちいい。
背中に腕を回してぎゅーとする。
あー、千年かわいい。
褐色のロリボディーを抱きしめて堪能する。
「なーなー、ところでそれ、どーするんだぁー?」
「え?」
小さなオッパイに顔をうずめて、和服の生地越しに頬をスリスリとすることしばらく。頭上から千年の声が聞こえてきた。何の話かと疑問に思いつつ、彼女の見つめる先、自身もまた意識を床の上に移す。
するとそこには陰キャのソーセージと妹さんの腕があった。
「わ、わたしの腕っ……」
「俺のソーセージがぁ……」
呆然と眺める、それぞれの部位の所有者二名。
腕とチンチンは新たに生え揃ったものの、旧来のそれは依然として床にポトリ。眺めていて遣る瀬ない気持ちが胸に溢れる。自分としては部位が部位なだけに、自分の手で処理することに抵抗感が大きいぞ。っていうか、痛々しい。
そして、これは妹さんも同じなようだ。
そうこうしていると、ここへ来て外野から声が届いた。
トイレに立っていたエリーザベト姉である。
「チンポッポッ! チンポッポッ! チンポッポォォォォォ!」
卑猥な単語を連呼しながら、バタバタと駆け寄ってきた。
しかも、何故か四足歩行。
どうやらお酒を大量に入れたことで、チンポッポモードにスイッチが入ってしまったようだ。地球の寿命も残すところ三日。いよいよ彼女の精神も限界が近そうである。きっと素面であっても色々と我慢していることだろう。
「お肉っ! お肉っ! お肉ぅぅぅぅう!」
彼女は廊下からリビングを抜けてバーのテーブル席まで移動。
床に落ちていたソーセージと腕を両手で掴んだ。
更に何をとち狂ったのか、これを頭上に掲げる。
そして、声高らかに宣言した。
「新鮮なお肉ゲットォォォォオッ!」
なんということだ、お肉、ゲットされてしまった。
俺と妹さんの新鮮なお肉。
断面からドロリと血液が滴る。これが身体を汚すことを厭わない。艷やかなブロンドを鮮烈な赤が染めてゆく。ドロドロに血濡れたエリーザベト姉も、これまた非常に可愛らしい。ちょっと危うい感じが堪らない。
「お姉ちゃん! それ私のっ! だめっ! だめなのぉっ!」
「うふふふふ、だーめ、これは私のぉ-!」
「待てよおいぃぃいっ! ひとつは俺のだよっ! 返せよぉっ!」
何が大切なのか、必死の形相に訴える俺と妹さん。
これにエリーザベト姉は、ニコリと満面の笑みを浮かべて言った。
「せっかくだし、皆で美味しく食べましょう! お肉っ!」
オチンチンと腕を自らの胸に抱きかかえて言う。
それはお酒に頭が蕩けた皆々にとって、非常に魅力的な提案だった。
--あとがき---
先月の25日、「西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~」の8巻が発売となりました。書き下ろしも本編に混ぜ込む形で、多めにお送りさせて頂いております。どうか何卒、よろしくお願い致します。https://kakuyomu.jp/publication/entry/2018042003
オーディオドラマも絶賛配信中です。
https://mfbunkoj.jp/special/nishino/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます