飲み会 七

 リムジンに揺られることしばらく、俺はエリーザベト宅まで戻って来た。


 車は運転手が勝手に車庫入れしてくれるし、エレベーターはフロア直通だし、通路も専用のものが用意されている。至れり尽くせりとは、まさにこのこと。このままなし崩し的に住所を移してしまいたい。


 もしも隕石落下が防がれたのなら頼み込んでみようか。


 千年を盾にすれば、強引に住み着くことも可能なんじゃなかろうか。


「あ、帰ってきた」


 リビングに到着。


 宅内バーのソファーには相変わらず千年の姿があった。


 彼女は俺と視線が合うと、不満そうな声を上げる。


「どこ行ってたんだ? オマエ、変な匂いがする」


「え? あぁ、座敷童子を探しに行ってたんだよ」


 千年の手には酒瓶が握られている。


 コイツ、また飲んでる。


 どんだけ酒が好きなのか。


 俺も相当だが、千年はそれ以上だ。酒乱だ。


 強いて言えば学習能力が絶望的。


「お、おねえちゃーん、あの鬼、また飲んでるよぉー……」


「そんなこと、わ、私に言われても困るわよっ」


 妹さんが今にも泣きそうな声を上げた。


 姉の方もこれを目の当たりにしては切なげな面持ち。


 やはりというか、二人とも千年が苦手なようである。


 出会った当初の勢いは完全に失われていた。


「ふーん? 座敷童子かぁー」


「そうそう、座敷童子だ」


「でも、座敷童子っていうよりは神の類い、それも悪神の匂いだぞ?」


「え? 俺、そんなに臭ってるの? っていうか、悪神って……」


 なんか不吉なことを言われた。


 最近になって出会った神様と言えば、福禄寿様くらいなものだ。


 悪神とか、まさかまさか。そんなはずはないでしょう。


「なんて名前のやつ?」


「そう言えば、名前とか聞いてなかったな……」


 相手は長らく人里に封印されていた座敷童子ちゃん。連絡先の交換など夢のまた夢。当然、この場で確認をする術などない。今更ではあるけれど、彼女は本当に座敷童子だったのかと、少なからず怖いものを感じた。


 エリーザベト姉に頼めば、会いに行くくらいはできそうだけど。


「まー、べつにいいけどな-」


「そ、そか。嫌な匂いだったら、その、悪かったな……」


「別に嫌じゃないぞ? ちょっとムカつくけど」


「え、あ、それなら今から風呂に入って落としてくるわ」


「おー! ありがとなー」


 普段の会話が適当なので、たまに真面目モードになった千年とのトークは緊張する。心臓がバクバクとする。彼女の言葉には、それが何気ない呟きであっても、こちらが想定する以上に重要な情報が含まれていること度々。


 だから色々な意味でピリピリとしてしまう。


「まー、それより飲むぞ-! 今日も飲むぞー!」


「アンタも好きだよなぁ……」


「駄目なのか?」


「いいや、駄目じゃないよ。ぜんぜん駄目じゃないから、千年。自分は楽しそうに酒を飲んでいるアンタが好きだもの。今日も心地良い飲みっぷりを披露してくれ。それが俺に残された数少ない喜びだ」


「おーっ、オマエいいヤツだよな! けっこう好きだぞ!」


「ありがとうよ。自分もアンタのこと大好きッス」


 ここで飲む分には、我が家の家計も傷まないしな。


 俺も今のうちに高い酒を存分に飲んでおくとしよう。タリスカーの五十年とか、こういう機会がなければ、絶対に飲めない高級品。貧乏学生の身としては、吐き散らかしてでも飲む価値があるとみた。


「よし! んじゃ今日も飲むぞっ! 俺は先に風呂入るけどー!」


「おー! 飲むぞっ! たくさん飲むぞーっ!」


 とても楽しそうに、手にした酒瓶を頭上に掲げて吠える千年。


 異臭野郎はシャワー室にレッツゴー。


「お姉ちゃん、あの鬼、いつになったら帰るの?」


「だ、だから、私に聞かないでよっ!」


 今晩も肝臓には頑張って頂くことになりそうだ。お願いします。肝臓様。

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