終末 四

 妹さんが運転するヘリに揺られて、一路、やって来ました我が学舎。


 着陸は屋上スペースである。


「っていうか、お宅の妹さん、めちゃくちゃハイスペック?」


「なにがよ?」


「いやだって、ヘリの運転とか普通に格好いいじゃん」


 運転する横顔に惚れてしまったよ。


 キリリとした感じが、普段の三割増しでイケメンに映った


 彼女には逆レイプされてみたいと、常々感じていたんだ。


「別にヘリくらい、私だって運転できるわよ? むしろこんなオモチャ、満足に動かせない方がおかしいんじゃないかしら。そんなくだらないことで感心していると、人としての程度が知れるわよ?」


「まるでヘリが運転できない俺が駄目みたいな言い方はやめて」


「貴方は仮にヘリを運転できても駄目だから安心なさい」


「そっすか」


 ローターが停止したことを確認して、一同、屋外に降り立つ。


 幸い世間の騒動は、同校の屋上にまでは至っていない。


 移動経路を空に取ったことで、ここへ至るまで、取り立てて面倒に遭遇することなく済んだ。費やした時間も十分かそこらだ。ディストピアの王様になったようで、ちょっとだけ気分が良かった。


「それでぇ、これからどーするのぉー?」


 パイロット用のメットを運転席に放り込んで、妹さんがやって来る。


 何気ないアクションが格好いいの羨ましいな。


 まるでハリウッド映画の女優でも見ているみたいだ。


 体格がロリータだから、ちょっと特殊なジャンルになりそうだけど。


「とりあえず、いつも通っている教室に行きたいかな」


「そう。なら行きましょう」


「おー!」


 エリーザベト姉の言葉に千年が腕を振り上げた。


 それでは屋上を出発、皆々で校内に移動である。




◇ ◆ ◇




 学校には人気がほとんどなかった。


 っていうか、廊下を歩いていても、誰と遭遇することもない。しんと静まり返った校内は休日さながらである。人類終了のお知らせが登校時間より以前に告知された為、大半の生徒は登校を諦めたのだろう。


 きっと今頃は、自宅に引き籠もったり、世間に出て欲望の限りを尽くしたり、各々好きなように最後の瞬間を待っていることだろう。なかには好きな相手と乳繰り合ってるヤツもいたりするのかも。


 個人的に最後の選択を取ったヤツは、隕石云々を抜きにしても死ねと思うよ。


「思ったよりも静かね。生徒の姿が見られないわ」


「うーん、ちょっとつまらない感じぃー?」


「その方が最後っていう雰囲気があっていいじゃん」


 ちなみに現在、エリーザベト姉妹は同校指定の制服姿を着用している。


 気分を出す為なのか、わざわざ着替えてからの登校である。


 妙なところで細かいこだわりをお持ちである。


 他方、自分と千年は昨晩と変わらずスーツと和服だ。


「ハイジの言うとおり、こうも静かだとつまらないわね……」


「風情あっていいと思わない? ウェーイされてるよりはマシでしょ」


「そうかしら? これだと全然面白くないのだけれど」


「そうだよぉー」


「まったく、これだから海向こうの連中はわびさびというものが……」


 ああだこうだと、適当なことを交わしながら廊下を歩む。


 屋外で繰り広げられる乱痴気騒ぎも、校舎内までは響いてこない。時折、自動車のブレーキ音であったり、叫び声であったりが遠く聞こえるくらい。おかげでカツカツという足音が妙に響いて感じられる。


 けれど、そうした穏やかな時間も束の間のことである。


「いやああああああああああああっ!」


 かなりハッキリと、女性のものと思しき悲鳴が届けられた。


 本当に嫌がって思える、いやああああ、ではなかろうか。


 感覚的にかなり近いところ、校内から発せられて思われる。


「おー? なんか聞こえてきたぞー?」


「ほらみろ、アンタらが要らんこと言うからこうなる」


「今の悲鳴だよねぇ!? いく? 行くよねっ!」


「ちょっとちょっと、どうして楽しそうなのよ、ハイジ」


「そういうお姉ちゃんだって、そわそわしてる癖にぃ!」


「わ、私は別にっ……」


 なんて不謹慎ななんだろう、エリーザベト姉妹。


 しかし、自分も少なからずソワソワと。


 自然と脳裏に蘇ったのは、つい先刻にも眺めたテレビ放送。どんなエッチな状況に遭遇できるのかと、息子も期待感を抱いている。やはり、輪姦だろうか。輪姦されてしまっているのだろうか。


「あっちから聞こえてきたなぁー?」


「ナイスだ千年! よし、行くぞっ!」


 千年が指し示す方向に向かい、我々は勢い良く駆けだした。







---あとがき---


5月29日、「田中 ~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い~」の11巻が発売となりました。本巻より書籍版のみの独自展開となります。約23万文字あるテキストの9割以上が書き下ろしとなり、大変お買い得な最新章です。どうか何卒、よろしくお願い致します。


公式サイト:https://gcnovels.jp/tanaka/

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