宝刀捜索 一
ファミレスを後とした我々は、本日もラッキー集めに挑むことになった。
現在は昨日にも利用したリムジンに乗り込んで、首都高を西に向かい移動している。車両は妹さんが乗り付けたもので、店を出てすぐの駐車場に止っていた。これをそのまま利用させて頂いた形だ。
ちなみに今回はちゃんと四人で後部座席に収まっている。つい先日、青梅行きの際に味わった孤独な移動とは違う。十中八九で鬼っ子の存在が、エリーザベト姉をビビらせての成果だろう。ありがとう鬼っ子。
車内は自身が知る普通乗用車とは異なり、二人掛けのソファーが向かい合わせで設けられている。その間にはローテーブル。傍らにはバーカウンターみたいな設備も用意されており、本当に自動車の中なのかと疑いたくなるような空間だ。
カウンターには冷蔵庫もあって、そこには色々と飲み物が入っていた。
そこから一つ、鬼っ子用にジュースをゲット。
これが気に入ったようで、彼女は大人しくチュウチュウとやっている。
席の配置は自分と鬼っ子が隣り合う形で、その正面にエリーザベト姉妹が並び座っている。二人掛けとは言っても、席と席の間には十分な空間が設けられており、肘置きの幅も申し分なく、とても快適なものである。
流石は高級外車のリムジン。しかも白色。ついでに外交ナンバー。
「せめて今日くらい、ゆっくりしたかったなぁ」
「なにを言っているの? 残された時間は二日日しかないのよ?」
「え、ちょっと待ってよ。まだ四日あるでしょ?」
昨日までと言っていることが違うじゃないですか。
彼女たちと出会ってから、まだ三日しか経っていないぞ。
よくまあ三日ばかりで、こうまでも馴れ馴れしい関係に及んだものだ。
陰キャもやればできるじゃないの。
「先程にもラッキー砲の発動日が二日後に決まったのよ」
「なにその有り難みのないネーミングは」
この車に乗り込んですぐ、エリーザベト姉に電話が掛かってきた。
なんだろうと疑問に思っていたのだけれど、これを伝える為のものだったようだ。
しかしなんだ、知性が残念ならセンスも残念な女である。
「今まで集めてきたラッキーを、隕石に向かって撃ち放つのよ。これが地球側の用意できる最後の策ね。もしも失敗したら、もしも隕石の軌道に変化がなかったら、この星は終わりよ。きっとその手のパニック映画みたいになるわ」
「残る二日間はどうするのよ? そのラッキー砲とやらを撃った後は」
「もしも成果が上がらなかった場合、人類の滅亡が免れないと判断された場合は、最後の二日間として、各国政府から国民に向けて通達が行われるそうよ。正真正銘、地球さん終了のお知らせがね」
「マジか……」
それはまた凄いことになりそうだな。
リアル世紀末状態になるだろう。
ちょっと見てみたい気もする。
「だから、最前線に立った私たちは、残り時間を効率的に利用するべきなの」
「むしろ安全に最後を迎えられるように、準備をするべきじゃないか?」
「私たちが後ろ向きになってどうするのよ」
「そうは言っても私たちは吸血鬼だからねぇ。人間に襲われても大丈夫かなぁ? そこいらの一般人なら、十や二十はモノの数に入らないもん。逆にこっちも遠慮なく、好きな相手をチューチューできちゃうしねー」
「うっわ、もう安全圏にいるからって、すっげぇ他人事だ」
それでも妹さんなら許せちゃう。
やっぱり見てくれがいいヤツはお得だよなぁ。
「という訳で、惨めな最後を迎えたくなかったら努力なさい」
「雪女を相手に全力で逃げ出した弱小吸血鬼がよく言う」
「あの時は生き残るのに必至だったから仕方ないじゃない! だ、誰だって自分の命が一番に決まってるわっ! それとも貴方が同じ立場だったら、逃げないで私たちを助けに向かうとでも言いたいわけ?」
「そりゃアンタらみたいな美少女の為だったら、命くらい余裕で差し出すね」
「はぁ? なに自信満々で嘘ついてくれちゃってるのよ」
「できないことをできるって言うと、後で辛い目に遭うと思うよぉー?」
「ハッハッハ! それよりも質問なんだけど、俺らはどこへ何をしに向かっているんですかね? このまま目的地を知らされないまま延々と遠出するのは怖いから、今のうちに教えて欲しいんだけれど」
妹さんと合流したことで、鬼っ子の機嫌も気になるところだ。
この子は正直、何を考えているのかサッパリである。しかも癇に障ると、予備動作ゼロで致死性の攻撃を仕掛けてくる。正直、エリーザベト姉妹と同席させるのは、いつ爆発するか分からない爆弾でも抱えているような気分。
今はジュースで大人しくしているけど、何が切っ掛けで愚図るか分からない。
「私たちはこれから、宝刀を手に入れに行くわ」
「ほうとう? まさか山梨まで移動するの? っていうか何故に?」
「刀だよ? 日本刀だよぉ? 君の国の特産品だよぉー?」
「あぁ、なるほど。そっちの宝刀ですか。ちょっと勘違いしてたよ」
「まったく察しの悪い男ね。最悪じゃない」
「だよねぇ。気配りのできない男はモテないんだぞぉー?」
妹さんの発言がいちいち心に突き刺さる。痛い。
っていうか、勘違いしても仕方ないと思うんだ。今の発言は。
宝刀なんて単語、普通に生きていたら日常生活では出てこないもの。
「それだったら別に俺らじゃなくても、普通の人に取って来てもらえばよくない? 場所も分かってるんでしょ? それこそ時間とリソースの無駄遣いじゃないですか。わざわざ四人で行くっていうのもイミフだし」
「既に何人か向かわせたけれど、一人も帰ってこないの」
「マジか……」
エリーザベト姉から畳み掛けるよう与えられた悲しい情報。
一気に気分が滅入ったよ。
「事情を理解したかしら?」
「それってヤバいのが持ち主だったりするんですよね?」
「持ち主は人間よ。私とハイジの二人なら苦労することはないわね」
「それならいいけど……」
しかしながら、一口に人間と言っても色々とある。
素手で人外連中を蹴散らすような、おいおいちょっと待って下さい、と言いたくなるような人間も、決して数は多くないけれど存在する。彼女らが新米吸血鬼であることを思うと、舐めて掛かるのは危険じゃなかろうか。
「もしかして、化け物退治系の人?」
「さぁ? だけど、相手が人間なら私たちの敵じゃないわね」
「いやいやいや、人間だってなかなか侮れないものだと思うけど」
吸血鬼はプライドが高いのが多いと聞くが、その典型が今まさに目の前に腰掛けている。人間であっても数百年モノの吸血鬼を倒せる人だっている。だというのに、この余裕はどこからやって来るのか。甚だ疑問だ。
「そろそろ到着するわね」
いかにも値の張りそうな腕時計を眺めて、エリーザベト姉が言った。
---あとがき---
本日、「西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~」の8巻が発売となります。書き下ろしも本編に混ぜ込む形で、多めにお送りさせて頂いております。どうか何卒、よろしくお願い致します。https://kakuyomu.jp/publication/entry/2018042003
オーディオドラマも絶賛配信中です。
https://mfbunkoj.jp/special/nishino/
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