292ki様 Story-3
扉を開けた。入ってすぐのところに、巨大な天蓋付きのベッドがあった。そして香が焚かれている。浅めではあるが、いい香りがする。おそらくは安眠のための香だろう、と直観的に理解できる。
そういえば、自分がすごく疲れている、ということを忘れていた。とりあえず外套を脱いでそのへんに引っかける。とりあえず横になりたい、という強い誘惑が私を襲う。
「あなたは横になってはいけません」
またあの声がした。眠いんだが。少しくらい休ませてくれ。ふとベッドの枕元を見る。白いふわふわの枕が置いてある。見るからに高級品だ。このふわふわに頭を預けたい。さぞかしぐっすり眠れることだろう。
「あなたは眠ってはいけません」
だとよ。ムカつく。だったらこんなものを置いておくな。人が寝るためにあるからベッドだろ。
とりあえず香炉を蹴飛ばして叩き割った。派手に散らかった。火事になると困ると思ったので、念入りに踏みつけて消す。
それから、枕をつかみ、両側から強く引っ張った。よい枕と頑丈な枕は別であるので、あっけなく二つに裂けた。羽毛らしきものが飛び散りまくった。むせる。
「げふっ、げふっ、げふっ」
「あなたは進まなくてはなりません」
ベッドも破壊しようかと思ったが、でかいし、柔らかいのでそれは大変そうである。
「あなたは進まなくてはなりません」
私はまた奥を見る。またドアがある。扉を開けた。
「ようこそいらっしゃいました」
「うわっ!」
裸の女がいた。それも、三人。
「こ、この屋敷の方ですか? すいません勝手に入ってきて。えーと」
「ようこそいらっしゃいました」
「ようこそいらっしゃいました」
「ようこそいらっしゃいました」
いや。
こいつらは人間じゃない。精霊? それとも、アンドロイド? どっちだか分からない。どちらにせよ、人間に似ていて、人間と性交渉が可能で、だが人間ではない、そのような存在だ。妊娠もしないだろうから、あとくされのない相手だ。
「どうぞ、わたくしたちをお好きになさってください」
冗談じゃない。
「その者たちを抱いてはなりません」
言われんでも分かるわい。パターン繰り返しやがって。
「その女たちと交わってはなりません」
全員叩きのめしていこうかと思ったが、料理や枕とは勝手が違うのでそれはさすがに気が引けた。無視して進む。縋りつかれたりはしない。
「あなたは進まなくてはなりません」
ドアがまた、奥に一つ。
「あなたは進まなくてはなりません」
ああ、そうだろうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます