おくとりょう様 Story-3

 そんなに広い部屋ではなかった。二人用か、あるいは一人用の食卓らしきものが置いてある。その上の皿の上で、いくつかの料理、あるいはパンなどがほかほかと湯気を立てていた。いい匂いがする。


 とりあえず、目の前にあるものを、手は出さないが分析してみる。一つは、肉団子だ。食べなくてもそれくらいのことは分かる。次に、こっちはどこの文化圏のものか分からないが、茶褐色のヌードル。それから、パンは丸いパンだった。丸いパンくらいは自分の故郷にもあるが、なんとなく艶があるパンだ。珍しい雰囲気だ。それから、これは……何だろう? 真っ黒な塊のようなものもある。いい匂いはするが、食べ物だろうか、これ?


 ヌードルの皿に勝手にフォークを突っ込むのは気が引けるし、真っ黒な塊に手を出す勇気は出ないが、パンなら一つくらいもらっても怒られるほどのことは起こらないだろうと思ったので、とりあえず手に取って、割ってみた。すると非常に驚いたことに、真っ黒……いや真っ黒ではないな、かなり濃い紫色のフィリングが詰まったパンだった。まさか毒でもあるまいから口に含んでみる。甘い。フィリングの正体そのものは分からないが、この何かには砂糖が使われているようだ。そして、焼きたてだ。どういう料理に合わせて食べるためのパンなのかはよく分からないが、とりあえず一つ、ぺろりと平らげさせてもらった。


 しかし甘いものを食べたので、飲みものが欲しくなる。飲みものらしきものはあるにはある。なんだか、瓶のようなものに入っている。透明で、非常に薄い瓶だ。手触りからしてガラスではないような気がするが、材質が分からない。中には黒い液体がたっぷりと入っている。どうやって取り出すのか、とりあえず頭の部分を、色々といじくってみたら、なんかキャップのようなものが取れ、中身を出すことのできる状態になった。口にしてみる。


「……」


 なんていうか、しゅわしゅわした飲み物だった。そしてこれも甘い。こんな飲みものを飲むのは生まれて初めてだ。びっくりした。この建物は一体何なんだろう?


 とりあえず、そんな腹が減っていたというわけではないし、これ以上料理に手を付けるのは気が引けるので、別の部屋に行ってみることにする。扉をいくつか開けてみる。……男が倒れていた。ようやく人間に出会えた。揺り起こす。


「もしもし。もしもし。この屋敷の方ですか?」


 なんていうのかひどく特徴的な髪形だな、と私は思った。

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