水野酒魚。様 Story-5
皿に盛られた太陽のプロミネンスを飲み干し、月の石をぼりぼりと齧りながら、次は地球がまるごと皿に載って出てきたりしたらどうしてくれようかなあなどと考えていたのだが、その後また料理の傾向が変わり始めた。
というか、もうこれは料理ではないと思う。太陽のプロミネンスと月の石の次の日に食卓に出て来たのは、でかい海老だった。いや海老は別にいいのだが、そいつは普通に生きていた。自分で茹でて食べろとでも言いたいのだろうかと思わないではないが、例えばそのためのコンロなどは用意されていなかった。生肉を鉄板や鍋の湯で加熱して食べる料理はずいぶん前に出て来たことがあるのだが、今回はそういうのではなさそうだ。
仕方がないので、でかい海老、あるいはロブスターと言うのか、を押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。味は悪くはなかった。食中毒などの問題に関しては、今更気にするだけ無駄だろうから気にしない。というか今の自分が食あたりくらいのことでこの生き地獄から解放してもらえるのなら世話はないと思う。
翌日は生きたままのニワトリだった。白色レグホンなどの量産用の品種ではないのは確かだ。多分、地鶏というやつだろう。
そいつも押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。骨の歯ごたえがいい感じだ。
エビの日から一週間くらい経って、もっと活きのいいのが姿を現した。
「こ、ここはどこでしょうか? わたしはベンジャミン・ブリッグズと言います。マリー・セレスト号という船の船長をしていて、船の上にいたはずなのですが――」
そいつも押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。
「あ、あなたは何でそんなに血まみれなのですか? 私の名はサラ・ブリッグズ。ベンジャミンという、一緒に船に乗っていた夫を探――」
そいつも押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。
最近の料理は、活きがいい。それにしても、もう今更どうでもいいとは言え、ここは一体何なのだろうか。ここに現れる料理は、一体どこからやってくるのだろうか。
「まあ、いいか。そんなこと。げっぷ。なんだか、ようやく少しだけ満足が行った気がしてきたな」
餌が喋るようになり始めてから、また長い歳月が流れた。もう壁には傷を付ける場所が残っていないので、日数がどうとかいう状況は超越している。
「……貴様。待て、そこを動くな。待て。其は我を、我を何者か知っての所業か。我の名は、ナ—―」
そいつも押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。
「あいつの臭いがする……あいつを食ったのは、お前か。まさか、このク—―」
そいつはぼうぼうと燃え盛る炎そのものだった。だが、そのパターンももう慣れている。そいつも押さえつけて、ぼりぼりと頭から齧った。
この状況がこのまま永遠に続くとすると、最終的には自分がこの宇宙の全てを喰らい尽くすことになるのかもしれない。まあ、そうなったらそうなったで、そのときにそのあとのことを考えればいいか。げっぷ。げぷー
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