水野酒魚。様 Story-3
ふと尿意を覚えた。だいぶ食べているはずなのに一向に満腹感は覚えないが、しかし出るものは出るようだ。広い部屋なので手洗いらしき扉もあった。開けてみる。いったん向こう側に入って扉を閉め、おっとそうだハンカチを長テーブルの上に忘れてきた、と思ったところで元の部屋に戻ると。
部屋の様相が一変していた。
いや、御馳走はある。御馳走はあるのだが、さっきまでは洋食が並んでいたものが、全部中華料理になっていた。さて、これはどういうことだろうか。自分が手洗いに入っていた時間は、長く見積もっても十秒はなかったはずだ。すぐに気付いて、ハンカチを取るために扉を開け直したのだから。
「まあ、そんなことはいいか、もう。それより、このせいろは何だろう」
せいろだけでもずらりと並んでいる。一つ開けてみる。点心が入っていた。つまんで口に入れる。小籠包だった。うまい。その隣のは、なんか小ぶりな、肉まんのようなものだった。中華の用語では肉まんとは言わないのかもしれないが、なんだかそんなようなものだ。
とりあえず、フカヒレだけ先に優先的に片付けてから、また尿意を覚える。そういえば忘れていた。そもそも手洗いをしたかったんだった。
というわけで、用を済ませて戻る。洋食に戻っている可能性も考えたが、違った。今度は、和食だった。多分、和食と言うのだと思う。日本と呼ばれる国のことをよくは知らないが、スシくらいは自分の国でだって売られているから分かる。一つつまんで口に入れる。やっぱりうまい。なお、手はちゃんと洗ったから大丈夫だ。
食後の茶を急須から注いで、一息つきながら、思う。この和食がここに現れてから、急須はかなりの時間放ってあったはずだが、なぜこの茶はこんなにも最適な温度を保っているのだろうか。
そうだ。唐突だが、思い出した。あの船の名前。マリー・セレスト号だ。マリー・セレスト号事件。救命ボートが残されたままの、しかし乗組員が消えた船のなかで、発見された紅茶が熱々の状態だったという。どう短く見積もっても、茶が冷める程度の時間は経っていたはずなのに、だ。
とりあえず試すべきことは色々とあった。とりあえず、手洗い以外の扉。最初にここに入ってきた扉を開けて、出てすぐに戻ると、今度はインド料理になっていた。ナンとチャパティがあるからインド料理だろう。もう一回閉めて、また開ける。今度は、何だろうこれ、どこだか分からない国の料理が並んでいた。
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