藤田桜様 Story-3
ところで、なぜ最初に屋敷に辿り着いたその日、夜のうちに黒曜石のジャガーを退治してしまわなかったのか。それは単純な事だった。ジャガーは雨の中で力を増す性質を持つ獣だ。魔物としてのジャガーと獣のジャガーは別の種族ではあるが、その点においては共通していた。だから、雨の降りしきる嵐の日に、ジャガーと戦うことは得策ではなかった。だからその日は、寝室を借りてとりあえずそこに泊まった。嵐の感じからして、翌日には晴れるだろうと思われたから。
「ところで、バフラム様。この寝室に、そのジャガーがやってくる可能性はないのですか?」
「大丈夫だ。一晩位なら私の魔術を使って結界を張っておくことができる。結界を隔ててはこちらから攻撃することもできないが、少なくとも寝込みを襲われる心配はなくなる」
「なるほど。ありがとうございます」
で、その魔術を使ってもらった。そして眠る。
ふと、夜中に私は目を覚ました。目の前に巨大なジャガーがいたので、ちょっと悲鳴を上げそうになったが、冒険者たるものの誇りにかけてそれはこらえた。だいたい、結界がまだ効いているはずだから、大丈夫だろう。
せっかくの好機なので、様子を伺うことにする。なるほど、大きい。聞いていた通りだ。巨大なジャガーだった。だが、少し様子のおかしいところがあった。そのジャガーの眼はこちらを確かにとらえた。普通に考えれば、向こうだって少しくらい驚きか、関心か、あるいは敵意などを示すはずだ。
だが、ジャガーはフンと鼻を鳴らして、私を無視し、部屋の中を漁り始めた。壺を割り、仕舞われていた服を引っ張り出す。何をやっているのかよく分からないが、どうも、何かを探しているように見える。
もしかしたら反応するかもしれないと思って、さっき食べたのを懐に少し残しておいたトルティーヤのかけらを投げてみる。さすがに振り向いた。だが、そいつの動きは非常に奇妙なものだった。
眼だけしか動かさない。
ジャガーは鼻の利く生き物のはずだ。そういう種族なのだから。なぜ、匂いを確かめようとしない? ジャガーは結局、目だけをぎょろりと動かしながら、部屋を出て行った。
あいつは多分、何かを探しているはずだ。
だけど、何を探しているのだろう?
さて、朝になったらバフラム様がやってきて、壺を魔術で修復し、服を仕舞い始めた。
そのバフラム様に、私は聞いてみた。
「そもそも、143年前、いったいこの屋敷で何があったのですか?」
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