佐倉島こみかん様 Story-3
「……」
野菜と二枚貝の入った赤いスープ、というように見えたものに、口を付けたのだが。
香りはよいのだが、その料理は異常なまでに塩辛かった。私は危うくスプーンを取り落としそうになったが、それはどうにか堪え、とにかく一口目を必死で嚥下する。しかし、もう一度このスープに匙を突っ込む気にはどうしてもなれなかったし、ましてこれを妹に口にさせるわけにもいかない。
とりあえず頭を巡らせる。この料理を作った何者かは、料理をするのが実は物凄く下手だったのかもしれないし、或いは何かの間違いで、塩を一瓶このスープの中に落としてしまった、というような事情があるのかもしれない。
「グレーテ、とりあえずこのスープは、ちょっと失敗作か何かみたいなんだ。こっちのオリーブなら大丈夫かもしれない。こっちを試してみるから、少しだけ待ってくれ」
で、オリーブを一つ摘まんで、二つに割って齧ったのだが、こっちは異様なほどに甘かった。新鮮なオリーブのようなのだが、なぜか甘いのである。これは多分オリーブに似てはいるがオリーブと呼ばれる植物とは別の何かだ、ということが直観的に理解できる。だが、塩辛いよりはマシだった。甘すぎるが、まさか毒ではないだろう。少なくとも即効性の毒であるなら私がもう死んでいるはずだし。
「グレーテ、ちょっとびっくりするような味だが、これなら多分大丈夫だ」
グレーテは実際変な顔になったが、それでもそれを食べた。では、次だ。この調子だと、多分何に手を出しても変な味がするのではないかという気がしてならないが、大きな殻のある生き物、えーと『海老』と呼ばれるものかな、それを割ってみた。そしてその身を少し口にする。
「……」
酸っぱかった。異常なまでに酸っぱかった。しかし腐っている、という感じの酸っぱさとはまた違う。酢をそのまま舐めたときのような味がするのだ。いったい、何なのだ、この料理は。
味付けがおかしいのではない、というくらいのことは三種類も試せば十分に分かった。料理が下手なのではない。というか何をどう料理したってこんな味のものを人間が作り出すことは無理だと思う。もっと根本的な、私には予想もつかないところにこの状況を作り出している原因が存在するはずだ。
他にもいくつか試してみたのだが、グレーテに食べられるものは結局オリーブだけであった。とはいえ、多少腹の足しにはなる。
さて、そのあと。私はドアを開け、次の部屋を調べる。
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